表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

新学期




6年生に上がった、ユリと透。ふたり並んで、いつもの道を一緒に学校へ向かって歩いていた。


「4月さなったけど、まだちょっとさみぃね〜」

ユリがそう言いながら、上着の袖を引っぱった。


「んだなぁ。でもほれ、早ぐ行ぐべ!遅れっちまうべした」

透がちょっとせかすように笑いかける。


「へへっ、また透と同じクラスだったっちゃ〜。サッカーも勉強もがんばっぺな〜」


「お、おぅ……がんばっぺよ」


やがて、ふたりは仙台市立若林小学校の正門にたどり着く。


「透、ごめん、先に教室さ行っててけらいん」


「ん?どうしたんだ?」


「んもぉ……トイレ、行ぎたくなっちゃったの」


ユリが少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「おぉ、わがった。おれ先さ行ってっから。……漏らすなよ〜?」

透がからかうように言うと、


「んもぉ、バガ透っ!」

ユリは顔をぷくっとふくらませて、くるっと踵を返し、足早にトイレへ向かった。


透はくすくす笑いながら、教室へと向かう。


教室に入ると、5年生のときと同じクラスだった子たちが、もう元気にしゃべっていた。

クラス替えがなかったので、見慣れた顔ばかりだ。


「おーっす、おはよ〜!今日も寒ぃなや〜」

仲のいい青葉光一が、ランドセルをおろしながら声をかけてくる。


「光一、おはよ〜。なぁ、この前のベガルタ、マジでいい試合だったっちゃ〜!あのまま連勝してけっちゃいいんだけどな〜」


「んだんだ!今、調子いっからな〜。DFも安定してっし。……ん?ユリちゃんは?」


「あぁ、あいつ、いまトイレ行ってんだわ」


すると、ちょうどそのとき。


「……待たせだ〜」

ユリが息を弾ませながら教室に入ってきた。


「あー、ユリちゃーん!おはよーっ!」

後ろの席の石田真希が手を振ってくる。


「おはよ、真希〜。今日も髪、かわいいっちゃ〜」


「えーほんと〜?ユリちゃんのリボンも、めっちゃ似合ってるっちゃ!」

そこへ白石美里や白河美乃梨、山元春海たちが加わって、。わちゃわちゃ話をしている。


「……んも〜、朝からうるせ〜なぁ、女子は」

透がぼそっと言うと、すかさずユリが、


「なんとー!?バガ透に言われたくなーい!」


「んだんだ、透もけっこうしゃべってっぺよ〜」

光一が笑いながら言った。


笑い声が、朝の教室にぱっと広がった。

新しい学年、新しい一日が、いつもと同じように、でもちょっとだけ新鮮に始まっていた。



やがて先生が入ってきた。担任は相馬美月先生。


「はーい。席について。えぇ、今日から新しい学年に進級して、卒業までの一年間、5年生の時と同じくみんなと一緒に過ごすことになりました。最上級生として、責任ある行動をしてください。またね、いろいろやってみたいことや、楽しみなことがたくさんあると思うけど、怪我とか病気には気をつけて、一年間楽しく過ごしましょう。それじゃあ、日直さん号令かけて」


「起立。礼。着席」


こうして、6年生最初の日は始まった。


ユリは新しいノートを開きながら、ちらりと窓の外に目をやる。春の光が差し込んで、どこか遠くへ走り出したくなるような気持ちになる。六年生。最後の小学校生活。まだ見ぬ未来に、少し不安で、それ以上にわくわくしていた。


その隣で、徹はこっそりユリの横顔を見ていた。


(……やっぱ、ユリって、なんかちがうんだよな)


ふとした瞬間に真剣な目をするところ。大事な場面で誰よりも速く走るところ。勝ちたいって気持ちを、全部プレーにぶつけるところ。そういう全部が、ただの幼なじみって呼ぶには、もう足りなかった。


(声、かけてみっかな……いや、変に思われっかな)


自分でもよくわからない気持ちが胸の中に渦巻いて、結局、また何も言えずにチャイムが鳴った。


放課後、ユリと徹は家に帰った後、昼食を済ませて再び学校に向かい、少年サッカーチームの練習に加わる。今日から新たに4年生の男女が加わり、総勢30人ほどとなって、新チーム・仙台ジュニアFCがスタートした。


まずはウォーミングアップで2人1組のストレッチ。


ユリは迷いなく徹の方へ歩いていき、自然にペアになる。


「ほら徹、もーちょっと腰沈めでー。んで、息ちゃんと吐いて」


「ん、んだな……ユリ、今日ちょっと怖いくらい気合い入ってらな」


「当たり前だっちゃ。6年生だべ? 先輩として、ビシッとせねど!」


言いながらも、ユリの声はどこかうれしそうだった。いつもどおり、徹と並んでサッカーができる。それだけで、肩の力が抜ける気がした。


徹も、そんなユリの笑顔を見て、つい口元がゆるんでしまう。


(……なんでこんな、ドキッとすんだべ)


そのあと、ボール回しへと移る。


「雅〜。ほら、ボール蹴るよ〜」


「いいよ〜」


彼女は相馬雅。担任の相馬先生の娘で、学校は違うがサッカーを通して仲良くなったレディースの仲間。フォワードでは、ユリと息の合った連携を見せる。


雅の元へパスを送りながらも、ユリはすぐに周囲を見て動く。


その姿に、徹はまた目を奪われていた。


(かっけぇな……ユリって)


「こらぁ徹、ユリのことが気になるのはわかるけど、ボールから目を離すな〜!」


原町監督のひと声に、周囲が「おー!」と笑いに包まれる。


「ヤバッ。はーい。すいません! 真斗、ボール行くぞ〜!」


徹は慌てて右サイドにボールを出す。そのパスを受けたのが伊達真斗。


「ほーい。じゃあここからドリブル突破〜!」


「真斗ー、1対1仕掛けろ!」


「雅、フォロー行くぞ!」


「ユリ、左空いでっぞ!」


「了解! 徹、後ろ見てて!」


「お、おうっ!」


ボールが速くなる。声も飛び交う。ユリの背中が、ゴールへ向かって走るたびに、小さくなる。


(ずっと、こうして一緒にいられっかな……)


徹は走りながら、心のどこかでそんなことを思っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ