戦慄のスピード、誇りの連携
『初戦突破――だが、次はもっと強敵だ』
試合後のロッカールーム。疲れの色が隠せねぇ選手たちが席につぐ中、原町監督が静かに立ち上がった。
「みんな、よぐやったな。初戦突破、ほんとにおめでとう。だども、次はすぐ2回戦、大阪代表の泉州ゴールドスターズどご相手にすんだ」
監督はモニターを操作し、相手の試合映像を映す。
「みでけ。これがあいつらのプレースタイルだ」
映像には、泉州ゴールドスターズの選手たちが素早ぐパス回しして、鋭ぐカウンター仕掛げる様子が映っとる。
「まず、特徴は全体のスピードの速さだべ。特にFW陣は足がはやぐて、ボールの扱いもすごくうまい。Jリーガーも多ぐ輩出してる名門中の名門だ」
映像の中で、FWが相手ディフェンスば翻弄し、華麗に突破してゴール決めるシーンが映る。
「そんで守備はべらぼうに固ぐてな。失点ほとんどしねぇし、スタミナ温存しながら相手の攻撃ばしっかり跳ね返して、すきあらばカウンターどが得意なんだ」
監督は映像を一時停止し、選手たちの目ば見渡す。
「わがんどごでやられっちゃのは、あいつらの速さと固さに押し込まれて、ペースば握られっちゃうことだ。特にボール失ったあとすぐ守備に切り替えんねぇと、やられっちゃうぞ」
「攻撃はな、あいつらの守備の弱いとこ狙ってぐらいがいい。速いパスワークで相手ば揺らし、サイドば使って相手ば揺さぶれ。人数かけて崩して、前線の連携ば最大限活かせ」
「スタミナ勝負もだいじだ。長引ぐ試合だとあいつら有利だべ。だども、わだしたちも走り負げでねぇ。短いパスつないで速攻仕掛けることで、相手の体力ば削るんだ」
「特に気をつけんのは、カウンターの警戒だ。あいつらは守備が固い分、ボール奪った後の切り替えが速ぇ。間合いの詰めと戻りの速さ、そこば絶対ミスんな」
「DF陣は、一人一人のマーク意識ば高ぐ持って、スペースあけんなよ。中盤のボランチは潰すところ潰して、パスコースば切るべ」
監督は真剣なまなざしで選手一人ひとりに語りかける。
「明日は初戦の勢いそのままに、全員が全力で走りきれ。戦術守って、最後まであきらめんな。勝利はわだしたちの手の中にある」
選手たちは力強く頷き、次の試合への決意を新たにした。
原町監督の戦術説明の後に、ユリ、徹、道也、真斗、迅、真希、柚月たちの会話を仙台弁でプラスしてみました。自然に戦術の話や気持ちのやり取りが入るように構成しています。
原町監督の戦術説明が終わると、選手たちはゆっくりと談笑しはじめた。
ユリがふと声を上げる。
「やっぱ、泉州ゴールドスターズ、めっちゃ速ぇみでぇだなぁ……」
徹がうなずきながら、
「んだな。でも、あんだらの足止めるのがわだしたちの仕事だ。気持ちで負げんなよ」
道也が拳を握りしめ、
「カウンター食らわねぇように、オレら守備ラインばピッチリ守らんば」
真斗がニヤリと笑って、
「だっちゃな。足だけじゃねぇ、頭も使わねぇとやられっちゃ」
迅が胸を叩き、
「俺は速攻で点決めっから、前線ば走り回るど!」
真希が少し照れながら、
「みんなで連携取って、パス回しも速ぐしねぇと。息ば合わせんならねぇ」
柚月が真剣な顔で、
「スタミナも勝負だべ。最後まで走りきるど!」
ユリはみんなを見渡しながら、
「おら、全力で走り切って、絶対勝つっちゃ!あの速さも固さも負けねぇって証明してやる」
徹が力強く応じた。
「その気持ちだ。ユリの夢も、みんなの夢も、ぜってぇかなえるべ」
道也も拳を突き上げ、
「オレらが仙台ジュニアFCの誇りだ!明日はみんなで力合わせて勝つど!」
真斗が声を張り上げ、
「さぁ、寝る前に最後の確認すっぺ。気合い入れて明日迎えっからな!」
みんなの声が重なり合い、ロッカールームに力強い結束が生まれた。
泉州ゴールドスターズ(大阪代表) 主力メンバー
背番号名前(読み)ポジション特徴
9高瀬 蒼真FW快足ドリブラー。背後への抜け出しと左足のシュートが強烈。
10江口 陽翔FWクレバーな司令塔タイプ。ポストプレーとラストパスに定評。
7緒方 純平MF豊富な運動量と判断力で中盤を支配。守備も巧み。
6三宅 慎吾MFボール奪取能力に優れた守備的MF。フィジカル強い。
3松原 海翔DF組織的守備の要。空中戦と対人に強く、ライン統率に長ける。
2白石 透真DF俊足サイドバック。攻守の切り替えが速く、上下動に優れる。
1東 悠翔GK反応速度抜群の守護神。PKセーブ率も高い。
泉州ゴールドスターズ(大阪代表)
男女混合の関西屈指の名門。特に女子選手の身体能力・戦術理解の高さは全国でも有名。
主力選手(男子)
背番号名前(読み)ポジション特徴
9高瀬 蒼真FW快足エースストライカー。ドリブルとシュートの精度が高い。
10江口 陽翔FW頭脳派ゲームメーカー。ポストプレーとアシストに秀でる。
7緒方 純平MFプレスと読みで中盤を制圧。カバー範囲が広い。
3松原 海翔CB守備リーダー。高さと読みの鋭さで最終ラインを統率。
1東 悠翔GKPKに強い冷静な守護神。左右への反応も抜群。
主力選手(女子)
背番号名前(読み)ポジション特徴
8橘 咲良AMFスキルと視野の広さが光る司令塔。両足でのパスセンス◎。
5辻 美月CB男子にも当たり負けしないフィジカルと強靭なメンタル。
14望月 あやか(もちづき・あやか)RSB攻撃的サイドバック。上下動とクロス精度が武器。
17白井 沙羅RWG高瀬に負けないスピードを持つ快足ウイング。
特徴(女子選手)
男子顔負けのスピードと球際の強さ。
咲良と美月を中心にチームをコントロールし、女子選手だけのパスワークでリズムを作る。
個の技術に優れており、球際でも引かない。
特に咲良 vs ユリ&瑠唯の中盤バトルは見どころ。
美月 vs 真希のセンター争いも激戦になる。
初戦終了直後・宿舎にて──夜の戦術ミーティング
郡山SCとの激戦を終え、仙台ジュニアFCの選手たちは宿舎に戻ってきた。
食事と簡単なシャワーを済ませたばかりの夜。まだ汗の匂いが残るユニフォーム姿のまま、宿舎一階のミーティングルームに全員が集まった。
疲労の色は濃い。それでも、明日の対戦相手が“あの泉州ゴールドスターズ”と聞いて、皆の目に自然と緊張が走る。
部屋の明かりが落ち、プロジェクターが起動。画面には、泉州ゴールドスターズの前試合の映像が映し出された。
原町監督の解説(仙台弁)
原町監督
「おめら、まずはほんとに、郡山相手によぐやったっちゃ。……けんどな、明日の相手、泉州は別格だ。そったらチームに勝つには、“考えで動ぐ”しかねぇっちゃ」
監督はホワイトボードを叩きながら、映像の場面を止めて説明を続ける。
原町監督
「まず、見でみれ。この9番、高瀬蒼真。足がとにかく速ぇっちゃ。カウンターで抜けられだら、もう追いつけねぇぞ。ラインの上げ下げ、ちゃんと徹底せなアウトだっちゃ」
画面では高瀬がロングボール一本で最終ラインの裏を取ってゴールするシーンが流れる。
原町監督
「次。10番の江口陽翔。ポストプレーの達人だっちゃ。ちょっと体当てられだら、簡単にため作られっからな。ルーズボール、絶対セカンド拾えよ!」
画面が切り替わり、今度は中盤の女子選手・8番橘咲良の場面。
原町監督
「んで、この子が一番のキーマンだ。橘咲良。展開と視野、抜群だっちゃ。おめらが1テンポでも遅れだら、縦一本でやられんぞ。……ユリ、ルイ、頼むっちゃ」
岩出コーチ(補足)
「咲良はな、DFラインの前に顔出して、逆サイドまで一気に展開すっからよ。とにかく“前向かせねぇこと”。ボール受ける前に寄せっぺ!」
戦術のポイント(監督が図を描く)
【守備】
高瀬(9番)の裏抜けを徹底マーク。ラインの声出し担当は道也。
江口(10番)のポストを潰す。セカンドボールを迅と真斗が拾う。
咲良(8番)を中盤で囲い込む。ユリ・瑠唯・徹でゾーンを形成。
【攻撃】
相手の右サイドバック白井沙羅の攻め上がりの裏を狙う。
左サイドの真希・柚月に展開してスピード勝負。
ボランチ経由で逆サイドへの展開、横の揺さぶりでスペースを生む。
ミーティング後のユリたちの会話(仙台弁)
ミーティングが終わると、部屋の隅でユリ、瑠唯、徹、真斗、迅、道也、真希、柚月が集まって、こそこそと確認し合った。
ユリ
「ふぅ……橘咲良ちゃん、ホンマでやっべぇな。ボールの回し方、完全にプロのそれだべ」
瑠唯
「んだっちゃな。……ルイ、緊張してきたわ。でも、おら、絶対負げねぇ」
真斗
「高瀬のスピード、えぐいな。あんなん、DFラインのズレで一発だべ」
道也
「おらが指示飛ばすっちゃ。ズレねぇように、声、途切らせねぇようにすっからな」
徹
「おれは咲良ちゃんに食らいつくっちゃ。ユリと挟み込んで、仕事させねぇべ」
迅
「セカンド、全部おれが拾うわ。ってか拾うしかねぇっちゃ、まじで」
真希
「攻撃はうちらサイドの勝負だよな、柚月?」
柚月
「んだんだ!白井の裏、走り放題だっちゃ。明日、爪痕残してやっぺし!」
まとめ
ミーティングは初戦終了直後、夜に行われた。
相手チームは「速さ・展開力・守備の堅さ」を兼ね備える全国屈指の強豪。
キーマンはFW高瀬、MF江口、展開役の橘咲良(女子選手)。
仙台は中盤でのプレッシングとサイド攻撃で活路を見出す。
ユリたちの結束力は、疲労の中でも揺るがない。
『湯けむりミーティング・女子編』
戦術ミーティングが終わり、時計はもう午後九時を回っていた。
明日も早いとわかっていても、気持ちの昂りは簡単にはおさまらない。
「んじゃ、女子組、風呂行ぐべっちゃ〜!」
ユリのひと声に、瑠唯、真希、柚月、奈緒、沙耶、佳純、美玲――
全国から選ばれた精鋭たちが、それぞれタオルや着替えを持ってわらわらと立ち上がる。
「おら、のぼせだら、先さ上がっからなっちゃ〜」
「んでまた言ってらっしゃいませ〜って倒れるやづだべ?」
「やめでけれ〜(笑)!」
笑い声を弾ませながら、タオル片手に大浴場へと向かう。
──宿舎の一角にある、そこそこの広さの大浴場。
扉を開けると、ほんのり檜の香り。湯気がもうもうと立ちこめていた。
「おお〜〜っ、しみるぅぅ〜……」
「足、いてぇっちゃ〜!ホントに走りすぎたっぺ〜!」
湯船にどぼん、と次々に浸かりながら、自然と話題は今日の試合、そしてミーティングのことへと移っていった。
柚月
「さっきの映像……咲良ちゃんって、まじでやべぇべ。後ろ向いてんのに、もうパス出す方向わがってら」
真希
「んだんだ。あれ、なんで見えてんの?人間センサーか何がついでんだべ(笑)」
奈緒
「ルイとユリがつけば、大丈夫だべっちゃ。……たぶん」
瑠唯
「“たぶん”言うなや〜(笑)……でも、おらもユリも、がっつりプレッシャーかけっからな。明日、前向がせねぇようにするべ」
佳純
「前半は様子見で、後半勝負……って感じ?」
ユリ
「いや、前半からいぐよ、おらたちは。押されだら、向こうのリズムになっちまっから」
美玲
「それにしても、あのFWの子……高瀬くん?はえがったなぁ〜……」
真希
「いや〜、柚月、ガチで明日は頼むべ。白井の裏、抜いで走ってけらいん」
柚月
「任せでけらいん〜!柚月、足だけは誰にも負げねっちゃ!」
湯気の向こうで、ぺちぺちとお湯を叩く音が響く。
沙耶
「でもさ、失点少ねぇってとこが、いちばん厄介だよね」
奈緒
「守備がかたけりゃ、こっちが先に点取るしかねぇべ。……決めっぺよ、あたしらで」
ユリ
「んだんだ。先に点取って、焦らせっぺし。相手が焦れば、スキもできっからな」
そしてふと、全員が黙った。
湯気に包まれながら、考えていたのは――
“明日の試合”、
“明日のわたし”、
“そして、チームとして勝ちたいという気持ち”。
さっきまでのわちゃわちゃが、湯の温かさとともに、少し落ち着いた空気に変わっていく。
瑠唯
「……でも、こうしてみんなで風呂入って、同じ目標さ向かってくの、けっこう好きだわ」
真希
「んだね〜。ほんと、こったな仲間がいっから、頑張れっぺなって思うべ」
ユリ
「明日、勝って、またここさ、帰ってこようや」
全員
「んだんだ!」「勝って風呂っちゃ〜!」「ぜってぇ湯上がりアイス買うっちゃ!」
笑い声が、湯けむりに混ざっていった。
明日への決意と、仲間との結束。
湯の中で交わされた言葉たちは、静かに、心の奥で灯になっていた。
『試合前の朝――心が震える音』
12月の鹿児島の朝。
吐く息がほんのり白くなるほどの、凛とした冷たさが空気を張りつめさせていた。
遠くの山に朝日が差しはじめ、白波スタジアムの屋根の向こうに、ぼんやりとオレンジ色の光が差し込む。
街の音もまだ静かで、宿舎の周囲には、冬の乾いた風がサラリと吹き抜けていく。
そんな朝の冷え込みの中、仙台ジュニアFCの選手たちは、宿舎の一室に集まり、それぞれの心の中と向き合っていた。
試合開始は午前九時。
その一時間前――緊張のピークは、まさに今だった。
『全国大会・2回戦――その朝、心を一つに』
「……寒みぃなぁ。鹿児島って、もっと暖けぇ思ってだのによ」
ユリがユニフォームの裾を引っ張りながら、宿舎の玄関先でつぶやく。
まだ朝日が差し切らない白波スタジアムの周辺は、乾いた冷気に包まれていた。
「んでも、空気しゃっこくて、しゃきっとすんな」
瑠唯が小さく背伸びをしながら笑う。
「……今日、絶対勝つっちゃ」
徹が低く、でも力強く言った。
「んだな」
道也がうなずく。「ゴールは、絶対に守っから」
真斗は口元を引き結び、グッと拳を握る。
「泉州って、すげぇ速ぇんだべ? 特にFWの大江と、10番の結月……女子であのドリブルは反則だって、マジで」
「うん。でも、昨日のミーティングでやったっちゃ。うちら、できっぺ」
柚月がそう言うと、真希も笑顔で続けた。
「守り固ぐして、タイミング見て仕掛けるんだっちゃね」
『キックオフ前――白線の向こう』
スタジアムのピッチに足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。
芝の上を走る感触、スタンドからのわずかなざわめき。すべてが、非日常だった。
整列し、礼を終えると、いよいよ主審の笛が口に運ばれる。
ピィィィ――!
全国大会2回戦、仙台ジュニアFC 対 泉州ゴールドスターズ。
夢を懸けた50分が、今始まった。
『序盤――風のように来る』
泉州ゴールドスターズの10番・結月 南は、キックオフ直後から異次元のスピードを見せる。
まるでピッチを滑るように右サイドを駆け上がり、3人を引きつけて左の大江 晃生にふわっとサイドチェンジ。
「やっべ、来るっちゃ!!」
真斗の叫びと同時に、道也がポジションを修正しながら大きく前に出る。
だが――
「うおっ……止まんねっ!?」
晃生のトラップが鋭く、タッチラインぎりぎりで切り返す。
会場がどよめいた。
「とんでもねぇチームだな……」
「けど、やるしかねぇっちゃ」
ユリが胸の奥をぎゅっと引きしめ、最初の守備ポジションに戻る。
彼女の隣では、瑠唯も真剣な表情で頷いていた。
『泉州ゴールドスターズ ミーティングルーム』
「――ええか。次の相手は仙台ジュニアFCや。
昨日の試合、わしも映像、10回は見た」
監督・三崎剛志の声が響くと、部屋の空気が一気に締まる。
選手たちはみな真剣な表情で、前方のモニターを見つめていた。
「いちばん注意せなあかんのは、ボランチの“10番”と“8番”。名前は……ユリとルイ、やったな」
モニターに表示された静止画に、2人のプレー集が映し出される。
「この2人の“間合い”の詰め方とパスの精度は、全国でもトップレベルや。
特にユリは、こっちが前に出ようとした瞬間、スパーンとラインを割るパスを入れてくる」
後列にいた10番・**結月 南**が、眉を上げた。
「んー、うちのスピードで突いていったら、出しどころ失うんちゃいます?」
「せやから、そこや。あいつら、足元だけでやっとるわけやない。
背後取られても、キーパー含めたディフェンスラインのカバーリングがええ。11番のキーパーも、判断早い」
三崎はそう言って、道也のスライディングキャッチのシーンを巻き戻して繰り返す。
「この判断力、Jユース並みや。うちの晃生(FW・大江晃生)、どうや?」
大江はゆったりと腕を組みながら言った。
「……フィニッシュの場面、1タッチで持ち込むっちゅうより、ちょっと間作ったほうがええ思いますわ。
逆に飛び出し読みやすいぶん、切り返し入れたらズレ作れるかも」
「ええ読みや。あと、真ん中のCBな。5番の真斗。予測がえげつない。ヘディングにも強い」
DFのキャプテン・桐生瑛太がうなずく。
「そんなんおったら、うちの空中戦は苦戦するな」
「せやから、あえて“中に入れない”戦術をとる。サイドえぐって、ニア低めの折り返し。
逆サイドの結月が中央入り込んで、ダイレクトで打て。フリーの時間は、たぶん一瞬や」
室内がピリッと引き締まる。
「ほんで、油断したらあかんのが……9番と13番な。真希と柚月。
彼女ら、サイドでの切り替えが速い。とくに真希は一瞬で前に上がってくる。ああいうタイプ、こっちにはおらん。逆に面白い対戦や」
結月が口元に笑みを浮かべた。
「女子がゲーム作るチーム、うちにとっても初めてや。楽しみですね」
三崎監督はゆっくりとうなずいた。
「せやから、リスペクト持って叩き潰せ。相手の強さをちゃんと認めたうえで、勝ち切る。それがうちのやり方や」
「うおおおっ!!」
泉州ゴールドスターズ、試合前夜の戦術確認は、静かに、だが燃えるような闘志を秘めて終わった。
『2回戦開始前――意識と火花』
鹿児島スタジアムの朝は、澄んだ空気と冬の冷気に包まれていた。
気温は10度前後。吐く息が白い。
仙台ジュニアFCの選手たちは、ピッチサイドに整列し、静かにジャージのチャックを下ろす。
その目の先には、ウォーミングアップ中の相手――泉州ゴールドスターズの姿があった。
「……速ぇな、やっぱ」
ユリがぽつりと呟く。
その目は、左右に素早くパスを回し、リズムよく動きながら連携確認をしている泉州の選手たちを追っていた。
真斗がすぐに口を開く。
「動き出しの初速、やっべぇな……あれ、トラップ1つミスったら終わるやづだ」
「んでも、こっちだって初戦で風穴開けだべ。怯んでらんねっちゃ」
瑠唯が言い、ユリはふっと笑ってうなずいた。
徹は、遠くでターンしてる10番・結月 南のステップをじっと見つめていた。
足元に吸い付くようなタッチ、ノールックでの折り返し。
その一挙一動に、全身の神経が研ぎ澄まされていく。
(……こいつらは強い。でも、負げねぇ。絶対に)
徹の中に、熱く滾るものがあった。
「ユリの夢を守るためにも、俺は……ここで倒れるわけにはいかねぇ」
「徹、集中すっぺ」
道也の声が飛ぶ。
ゴール前で黙々とジャンプを繰り返していた彼も、相手FW・大江のプレーを警戒していた。
柚月と真希は、2人で細かなリフティングから軽快なパス交換に入っている。
「これ、サイドでかましたら効ぐよ、絶対」
「うちらのカウンター、見せるっちゃよ!」
そして、仙台側の円陣が組まれる。
原町監督の声が飛ぶ。
「お前ら、自信持て!相手は確かに強い。でもな、ウチらだって――」
「やれんだべ!」
「うぉおおおおおおっ!!」
円陣の中心で徹が叫び、全員が拳を突き上げる。
その勢いは、泉州の選手たちにも伝わっていた。
向こうも、声を張りながら円陣を組んでいた。
「リスペクトはすんで!でもな、勝つのはウチや!」
「おおっしゃぁああああ!」
冬の空に、2つの雄叫びが交錯する。
――午前9時。
笛の音が、静まり返ったピッチに響いた。
全国大会2回戦、仙台ジュニアFC 対 泉州ゴールドスターズ。
東北の粘りと絆のサッカーと、関西の切れ味鋭いスピードサッカーが、ぶつかり合う。
勝つのは、どちらか。
戦いの幕が、いま、切って落とされた――