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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

まじないのいきもの

 私は悪人ではないです。


 大切な家族を失って、その復讐を果たしたまでです。


 この行いを咎める人が悪人の味方であって悪人そのものだと私は考えます。



 私は風車の見える港町でお母さんと、○○と一緒に暮らす小さな女の子でした。


 ○○って言うのはね、赤茶色の長い毛をした立派な猫のこと。賢しこくって、ちょっとだけ意地汚い猫。


 大きな台風が過ぎて日差しの暖かい日。


 母と共に庭の片付けをしていた時のこと。


 吹き飛んだバケツに溜まった雨水を一生懸命飲んでいる黒い何かを見つけたのです。


 小さな身体と素早い動き。


 私に気付いたのかバケツを蹴飛ばして、それは逃げていったのです。


 ネズミかなにか、もしかしたらお化けかも、と私は少しわくわくした気持ちになりました。



『お母さん!なんかいた!』



『んー?』



『なんかいたってば!来てよ!』



『そー』



 なにかが居なくなったバケツの跡地を見てもらおうと、草をむしる母に私はしつこく声をかけました。


 けれども母は一瞥もせず、せっせと作業を続けるばかりです。



『どうしてきてくれないの?』



 剛を煮やした私は、大きな声をあげておいて結局母の元まで行きました。



『雨上がりはね、草むしりがしやすいの』



『……』



『地面が乾いていると、なかなか抜けないでしょ』



『……』



『だから今抜いちゃいたいのよ』



 どうしてと聞いておきながら、来てくれることだけを求めていた私は少しぶすくれて足元の小石を蹴飛ばしました。



『あっ……』



 その小石が向かった先にいた蟻が潰されてしまったのです。



『ごめんね』



 小石で攻撃を受け、もがいていた蟻を助けてやると、よろろと細かい動きをしながらどこかへ行きました。


 ふと、母の方に視線を送ると母もこちらを見ており目が合ったのです。



『どうしたの?』



『ありんこ、潰した』



『あらー』



『よろけて、どっかいった』



『そー』



 さっきの気のない返事をしている様子とは違い、母はなんだか楽しそうに見えました。


 なんでもない日常を私たちは繰り返し、親子二人で暮らしていたのです。



 ある日また、大雨が降りました。


 母が用意してくれた黄色いカッパと長靴、これがちっとも可愛くなくて私は雨の日が嫌いでした。


 それに、すり減った靴底の片足から少し水が入ってくるのも嫌なところ。


 それから、濡れると重いカッパに、傘までさすことに意味があるのか分からない。


 これに対して私の『どっちかがいい』という言葉の意味を母は理解してくれませんでした。


 片足をカポカポさせながら学校を行き来する私に『なんか、臭いね』と、声をかける友達も嫌いでした。


 とにかくほとんど、憂鬱に過ごすのが雨の日です。

 

 私はその日もぶすくれて家に帰ってきました。



『おかぁーーさん!!』



 雨の日でない時、私は『ただいま』といいます。


 雨の日はちっちゃく『ただいま』と仕方なく言います。


 けれどもこの日は、叫びたかった。


 ビチャビチャに濡れた片足に我慢ができなかった。


 道路を渡るカエルも見れなかったし、角を出したカタツムリも見れなかった、楽しいことが何も起こらなかったんです。


 私は募るその想いを『おかあさん』にぶつけてどうにかしたかった。



 ある日、お母さんは冷たかったし、変な色の顔してた。


 けれども、お母さんと一緒に寝て起きたらお母さんがあったかくなって、声をかけてくれる気がした。


 起きても、お母さんは冷たかった。


 2階の押し入れから毛布を取り出して、階段の上から落とす。その毛布を引きずって、お母さんの元にいくと、なんだか『くさい』気がした。


 でも、学校で『くさい』って言われたのが嫌だったから、お母さんはくさくないって考え直してまた毛布に入って一生懸命に眠りにつきました。



 その後のことは覚えていません。


 『おかあさん』はいつの間にか居なくなってしまって、私はいつか帰ってくるのを待っていたのです。


 そのうち、でも必ず帰ってくると思っていました。


 お母さんは帰ってこなかった。


 そして、私が今思ってる事。


 こどもが大人をたおす方法だ。


 ありんこは、お腹がちぎれると死ぬとを知っていた。


 ある日私が小石で潰したありんこも、きっと死んだんじゃないかな。


 お腹が取れかかってたから。



 こいつをたおす。


 毎日真っ赤な顔をして、帰ってくれば私に水を出せと命令してくる。


 私は水道をジャっと一捻りする。


 溢れるほどの水を一気に汲んで、手元が濡れたコップをテーブルに置く。


 こいつは、そのまま眠ったり、冷蔵庫から缶を出して飲んだりもする。


 わたしはお腹がいつも空いているのに、何か食べている。


 ずるい。


 けれども、いつも大きな口を開けて、涎をたらして、豚の鳴き真似みたいな音を出してる。


 これなら私でも倒せそうだった。


 こいつをたおす。


 でも、聞いとかなきゃいけないこと。


 それを聞いとかなきゃいけない。



『お母さんどこいったの?』


『もしかして、しんじゃったの?』



こいつは私の顔を見て驚いたような顔した。



『ーーそうだ、お母さんは地獄行き!』


『お前を残して死んだから!』


『だからお前も地獄にいかないように気をつけろ!』


『俺に逆らったら地獄行き!』



 きょうコロそう。


 その日はお母さんが死んだなんて信じられなかったけれど、大人が言う事はほんとうなのかもとわたしは泣いて、泣いて、泣いて、いつのまにか朝になって、あいつはいなくなっていた。


 わたしはお母さんと行った公園で遊んでみたり、駄菓子屋でチョコレートをにぎってみたり、辺りをうろついていた。



『そんなに触ったら、チョコが溶けちゃうだろ。』



『…………』



 わたしはだまってポケットのお財布をさがした。


 お財布なんてもってないのに、さがしたらあるような気がしたから。


 もじもじと、口をへの字にして私は顔が熱くなっているのをかんじた。


 どうすることもできなくて、この大人がこわかった。


『もうそんなチョコ売れないからね』


『ほんとうは弁償しないといけないんだからね』


『もういいから、それはそのまま持って帰んな。今度はお母さんとこないとだめだからね』



 その瞬間に、車に轢かれたような衝撃が走って、私の手からチョコがするりと落ち、涙が溢れると同時に走り出していた。


 でもだれもおいかけてきてはくれないし、お母さんと会うこともできなかった。


 息も絶え絶えになり、鉛のような身体をひきずって帰るしかない家のドアノブに手をかけようとしたところ、駄菓子屋で握っていたチョコレートが少し手に滲んでいるのに気がついた。


 わたしはその手をよく舐めて、静かにドアノブを回した。



 今日もあいつは水を汲めと言う。

 今日も豚の真似をしている。



 私は暗がりの台所で、包丁を手に取った。


 チョコレートを握るよりも悪いことをしている気はしない、かんたん、なんともない。


 わたしはゆっくりと、近づきこたつで寝ているそいつの様子を確かめた。


 夜中に目を覚ますと、こたつから出て隣の布団でいつの間にか寝ているこいつ。


 だから途中で目をさましたりするんだよ。


 私は包丁を手放さず、片手でこたつ布団を静かにめくった。


 また様子を確かめる。


 本当は起きてるんじゃないか?


 よく考えた。


 まだ起きそうにないけれど、すこしずつ。


 私は布団をまくって、しばらく待った。


 時計の針の音を100回数えたら、今度は服をまくろう。


6.7.8.100


 もぞりと、動いた。


 もう一度、100数えたら。


 そっとシャツに手をかけて、さっきよりも慎重に下敷きになった部分がこすれないように。


 おへそが見えるぐらいまで、なんとか上げることができた。


 けれどもそれ以上は、力がこもりすぎてどうにもならない。


 左側の心臓をひとつきにすれば絶対に死なせられると思っていたけれど、それを諦めなければならないだろう。


 私は考えた。


 ありんこは、お腹がちぎれると死ぬから。


 私はすぐに答えに行き着いて、暗闇でも見える、点。こいつのおへそ目掛けて一気に包丁を振り下ろした。



『ぅっ』



  私はすんでで、包丁を止めてしまった。


 けれども勢い余って、少し刺さったようだ。


 こいつがすこし、呻き声をあげてうっすら目を開けた。


 そして目が合った瞬間私は目を瞑り、その包丁の上に体を乗せるようにして深く突き刺した。



 真っ暗だ。

 何も見えない。

 目をつむっているからだ、



『……』


 目を開けるとオレンジの薄明かりではっきりと見えた。



『おげぇ、げぇええ!!げ、げ、』



 包丁が刺さったままそいつは、あばれた。


 立ちあがろうにも足がもつれて、よろめいた。


 棚にぶつかって、色々なものが落ちる。


 あばれてる。



『ひっ……』



 わざとこわしてる?


 ものが落ちて大きな音が出るたびに、わたしは

 声にならない息が出た。


『ひっ』



『っ……ひっ』



 怖くて身動きができずに私はその様子を観察するだけだったけれど、再び倒れ込み足をバタバタさせて何かを叫んでいる。


 もうだめだよね、わたしがやったのばれたら私をきっと許さない、私をころすんだ。


 そう思い私はこたつ布団をテーブルクロス引きのように引っ張って、そいつに被せた。


 そして、乗っていたテーブルの板を持ち上げ思い切り叩きつけた。



ーーまだ動くんだ。



 私の手はテーブルの板から離れていない。


 なんども、手が震えてるほどの重みに耐えながらなんども叩き付けた。


 うーうーと唸り声はまだ聞こえている。


 息を切らして、もう私に出来ることはないと悟ったがたおしきれていない。



 ランドセルには、赤い猫を中にどうにか入れて、玄関に置いておいた水の入った水筒をかけた。


 靴が上手くはけないので、手で持って履かずにとにかく外へ出た。


 外は、リーリーと虫がないていて、星が輝いていた。


 ここを早く離れようと、わたしは近くの公園へ急いだ。











「私は悪人ではないです」


「大切な家族を失って、その復讐を果たしたまでです」


「この行いを咎める人が悪人の味方であって悪人そのものだと私は考えます」



 私は人のようなものにそう打ち明けました。


 私の言葉に、ひそひそとなにかの相談をしているようです。


 そして、私に向き直り口をパクパクさせました。


 その瞬間に私は目眩のような、ぐにゃりとした世界が見えてーー











 気がついた時、私は空の下。


 空が見える地面に足を付けていた。


 また、この世界で生きていかないといけないみたい。


 お母さん、私どうしたらいいの?



 赤い猫はどこいった?



お読みいただきありがとうございました。

ネコヘラ以上に拙いもので、申し訳ありません。

続きは未更新でしたが、事前に完結に向けたものを持っていたので完結いたしました。ブラッシュアップというか、文章を学んで頑張りたいです。その時の現状をありのまま更新させて頂きました。






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