レベル1/僕とダンジョン
ほぼ処女作です。
一日一話くらいで上げられたらうれしいです。
「朝だっ!」
達也は布団をはねのけて、目覚まし時計へ手刀を叩きつける。
21世紀が折り返しを迎えても、学生の朝は依然早い。
通学準備は既に万全で、必要なものも全て机に並べてあった。
「数Bの教科書、少年サンデー、筆箱に鉛筆消しゴム、模擬拳銃」
最後に……
彼はクローゼットから一着のセットアップを取り出す。
「パワードスーツ、と」
掃除屋という職業がある。
ある時から世界に現れた"ダンジョン"と呼ばれる迷宮を踏破し、怪物を始末する職業だ。
青年古賀達也も、その一人で、
現在は父のもとで見習いをしている。
ぶっちゃけ、達也の家は日本でも有数の名門だった。
父親の裕は、日本で数千人しか持たない国家資格を有し、世間的には"エリート"と呼ばれる部類。
一般には公開されないハイリスクハイリターンな依頼も、"本来なら"、政府から直通で流れて来ることも多いだろう。
加えて、実家も代々政府お抱えの掃除屋であり、怪物退治の素質や人脈も豊富と来た。
現代の日本で、これほど金を稼げる環境は他にないだろう。
実際、裕の兄弟は、サラリーマンの生涯年収を一度の仕事で稼いだと話していた。
しかし……
現状、古賀親子はこんなボロアパートで一人暮らしをしてる。
「親父! 起きろ!! 今日は午後から依頼入ってんだろ」
「はっ!! そうだ、お得意先からのインポータントな依頼が!!」
頓珍漢な横文字を交え、裕が飛び起きる。
「インポータントって、今日の依頼は……犬小屋サイズのダンジョンの駆除だろ? 依頼人は隣家のおばさん。いつもに増してカスみたいな仕事じゃんか」
「違うぞ達也。犬小屋サイズじゃなく、犬小屋の隣に現れたダンジョンだ」
「……」
「……」
無言で見つめ合う達也と裕。
彼らが貧乏な生活をしている理由。
それはこのようにショボい依頼しか、古賀裕の元へ来ない事だった。
直近の二件も、逃げ出した鶏を捕まえてくれ、家具の組み立てを手伝って欲しい、と言ったもので、もはや便利屋か何かと勘違いされている。
しかし……それでも何とかやり繰りをして、達也を高校へ通わせられているのも事実だ。
「まぁいいや。俺は学校に行ってくるから……夕飯は久々にステーキにしようか」
「おお! 気前がいいな達也」
久々の贅沢に、ニッコリ笑顔な裕へ背を向け、達也は玄関のドアに手を掛けた。
「あ、そうだ」
「ん? どうした達也」
「ちなみにどのくらいなんだ?」
「なにがだ?」
「その、犬小屋の隣に出来たダンジョンのサイズだよ」
達也は少し照れくさそうに頬をかく。
ショボい仕事でこそあるが、久々にダンジョン攻略の依頼を取ってきた父親を褒めたかったのだ。
ダンジョン踏破は国からも補助金が出る。大きさにもよるが、大体は数十万からのスタートになる。
もちろん、小さいモノだと数百円からだが、、
今回は別だろう。
火の車だった家計には、嬉しい雨だ。
数秒の沈黙の後。
裕がボリボリと頬をかく。心なしか目線が泳いでいた。
「大きさは?」
「犬小屋サイズ」
達也がドアを閉める。
「犬小屋の隣の犬小屋サイズ」と言う声がドアの向こうから聞こえてきた。
『現代ダンジョン攻略/レベル1/僕とダンジョン』
「さて、帰るか」
今朝は少し冷たかったかもしれない。
なんせ久々のダンジョン攻略と聞いて、気持ちが上がっていたのだ。
親族には父を馬鹿にするものもいるが、全盛期の裕は本当に凄い掃除屋だった。
驚異的な身体能力に、圧倒的な格闘センス、怪物やダンジョンに関する知識も超一流で、彼と関わった全ての人間が羨望のまなざしを向けていた。
本気を出せば父こそが、世界で最高の掃除屋だと、達也は今でもそう思う。
だから胸が熱くなっていた。
世界最強の父の姿をまた見たいし、そして何より、
「親父を超える掃除屋になりたい」
そう呟いたところで、達也は玄関前の男性に気が付く。
彼も同時に達也を認知したらしい、
「古賀達也さんですね。お待ちしておりました」
「どちら様ですか」と達也が尋ねるより早く、男は一枚の封筒を差し出した。
「あいにく名刺を切らしていて申し訳ございません。井上と申します。それだけお父様に伝えていただければ、我々を信用して頂ける筈です」
封筒の中身は、ダンジョン攻略の依頼だった。
派遣先は政府しか把握していない、中規模ダンジョンらしく、依頼金は2日で400万。
内部は調査済で、リスクは少ない模様。
「マジか……」
破格の条件だ。民間だと、こんなに都合のいい依頼はない。
しかし、得意先の元へは、こういった都合のいい楽なケースが来る事も達也は知っていた。
彼を驚かせたのは、この様な依頼が直近だけでも数件以上来ていた事実だ。
父は達也の知らないところで、ダンジョン攻略の依頼を全て断っていたのだ。
「この程度の条件なら僕だけでもこなせる」
これでも達也には実戦での経験もある。母が亡くなるまでは、父親から鍛錬を積まされてきたのだから。
気づけば達也は依頼を受ける旨をメールしていた。
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