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第四話*葉のおうち

 そこにいたのは、葉の知る花館芽里ではなかった。どこか素朴で、どこかあどけない、初めて見る少女だった。


 瞬間、少女は両手で顔を覆った。その勢いは凄まじく、バチンと冷たい水飛沫が葉の方まで飛んできた。


「あの、これは、違うの、ウォータープルーフだし普段は水くらいじゃ落ちないんだけど、川に飛び込んじゃったし、瑞木さんが激しく擦るから…いや、そうじゃなくて、これは……」


 慌てふためく少女の声は、やはり葉の知る彼女のそれだった。


 そうか。メイクか。


 そんな当たり前のことに思い至るまでに、随分時間を要した。一連の衝撃の数々が、葉の頭をかなり混乱させていたようだった。

 そしてその事実は同時に、葉に別の大きな衝撃を与えた。


 すごい!メイクか!


「うちで働いてほしい……!!」

「え?」


 しまった。つい願望が声に出た。


 そう思って葉が口を押さえるのと、彼女が呆気に取られた顔を手の隙間から覗かせるのが、ちょうどぴったり同時だった。


「ごめん!無理強いしてメイクおとしちゃって。とにかくうち来て!走れば3分くらいだから」

「え、あの、瑞木さん?」


 承諾の返事も待たず、葉は走り出す。右手に子猫を抱え、左手で彼女の手を引いて。



 新緑の小道を抜け、薄暗い裏路地を小走りに抜ける。いかんせんふたりともびしょ濡れなので、人の多い道は避ける必要があるのだ。ふたりが走り去ったあとには、まるで軌跡のように水滴が残っていた。


 ふいに、視界が開ける。


 まばゆい西陽に照らされたそれは、西洋の城の如く、荘厳で華やかだった。


「ここ、私のうち」

「え?でもここ…」

 城門とも呼べるほど洒落た柵には、表札ではなく、明らかに横文字の看板がかけられていた。


 Bloom Rose ーーそう書かれた看板の上には、小さくwedding hallとも書かれていた。


 wedding hall …… 結婚式場。


「うん、私の家、結婚式場なんだ」


 葉はくるりと振り向いて、屈託なく微笑む。


 彼女ーー芽里の耳には、先ほど聞き流していた葉の言葉が、今更ながらにこだましていた。



 ーーうちで働いてほしい…!!

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