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Nerine:彼らの物語  作者: ぷやねこ
1/1

始まりの爆発音

マフィアの国と呼ばれているNerine

そこでの本編を書く前に、キャラ把握のための物語。


これはNerineという国や世界観の説明のための物語であり、彼らのキーワードを知るための物語。

 ——ドォンッ!……パラパラ。

 快晴の真昼間、12時の鐘がいつもなら鳴り響くその街では、時間を告げる爆発音と建物の崩れる音が響いた。

 町の人たちは特に驚いた様子もなく、ああ始まったかと、やれやれと苦笑いを浮かべながら商いを続けている。街はいつも通り、平和な時間が流れている。


「……っ、死ぬぅっ!」


 そんな中、爆発音とその煙から脱出してきた男は、今しがたの爆発により破壊された巨大な時計台を有していた建物の、屋根の上を走っている。

 ぶかぶかなトレーナーを着て、全力で走っているその様は、むしろ普通の反応ではないだろうか。

 男は屋根の下を見ることはないが、その下では日常生活を送る一般市民が市場で買い物をしているところだった。

 こちらの方が異常だ。


「相変わらずの逃げ足ですね、テトさん。ほんと、楽しくなっちゃいますよ」


 そんな男 テト・スレイドの後ろから、にこやかに爽やかな笑顔を携え、全力で追いかけてきている青年が1人。


「ならなくていいですーーーーーーーー!!!!」


 全速力で逃げているのに、その距離は徐々に迫ってきている。

 それもそのはず。青年とテトにはリーチの差があり、また、普段運動不足なテトと違って、青年は体を鍛え上げている。

 追いつかれるのは時間の問題なのだ。

 ——ここが、普通の屋根の上ならば。


「よっ、と!」

「!」


 煙突の穴を飛び越えたテトは、そのまま隣の屋敷へ飛び移り、そして何もないはずのその屋根から、突如として姿を消した。

 追いかけていた青年は1度足を止めるが、ピリッとした空気に何かを嗅ぎとり、即座に隣の屋根へと飛び移る。

 ——ドォォオンッ!!!!

 さっきの時計の爆発よりも幾分も大きな爆発音に、市民たちは流石に驚き、足を止め、空を見上げた。


「……今回は派手だねぇ」

「まーたテトが全力で逃げてるんだろう。さて、いつ捕まることやら」

「賭けるかい?」

「俺は相手に賭けるね。なんてったって、相手は浩楼(はおろう)だろう?勝ち目なんてありゃしないだろう」

「それじゃあ賭けになんねえなあ!」


 浩楼(はおろう)。それは、この国 Nerine(ネリネ)で2番目の面積を持つ地区の名前。そこ出身の青年が相手であれば、自分たちの地区は負けるだろうと、彼ら話しているのだ。

 笑いあって話していた彼らも、やがて各々の仕事に戻っていく。つまりこれは、彼らにとっては日常なのだ。正確には、日常、ではないのだが。


「……危なかった。片足を吹っ飛ばされたら、もう抗争に行けなくなるじゃなですか。ほんと……楽しくなっちゃいますね、テトさん」


 ニィ、と、1つ笑みをこぼす青年。

 浩楼(はおろう)地区出身 ベルナルド・アルバーニ。それが、青年の名前である。




「あぶねえあぶねえ……普通に殺されるわ、あんなん」


 逃げるために全力で走っていたテトは、実は屋根についている窓から下に降り、現在は普通に地上を歩いている。地の利を生かした戦いを、彼は熟知している。

 この地区 Tharde(スレイド)は、テトにとっては庭だ。己が生まれ、途中別の地区にいたとはいえ、長年住み続けている場所であり、己の現在の拠点。情報戦を得意とする彼にとって、他地区もそうだが、地理の把握は基礎の基礎である。


「それにしても……ほんと、抗争とか辞めてくんないもんかねぇ……、命がいくつあっても足んないんですけど」


 ブツブツと独り言を呟きながら歩いていると、目の前から銀縁眼鏡をかけた男が現れる。

 スーツを着た彼は、それでも鍛えているのがわかる体つきだが、眼鏡をつけ前髪をかき上げたその姿はインテリを思わせる。

 イルマ・サージス。テトの秘書を務めている男である。


「げ……イルマ……」

「げ、とはなんだ、折角お前を迎えに来たというのに」

「お前のその言葉ほど信用ならないことはない」


 うげぇ、という顔をしながらも、イルマという男の後を付いて行く。なんだかんだと言いながら、イルマは仕事のできる男である。……ツメの甘い面もあるが。

 路地を歩きながら進んでいくと、どんどんと袋小路へと向かっていることに気づくテト。だが、後ろにはすでに、屈強な男が2人程。

 あぁやっぱりなぁ、ハメられたなぁ、なんて思いながら歩き続けていたテトは、ぶかぶかなトレーナーの中に隠していたスイッチを——押した。

 ——ドォォオン!!!!

 爆発音が鳴る。

 なんだ?と一瞬、そちらへと気を向けた屈強な男たちと、それを聞いて、しまった!という顔をしたイルマは、すでに後手である。

 テトの姿はもう、彼らの間にはいない。


「——くそっ!やられた……!!追え!路地裏の3番線だ!そこに奴は逃げた!!」


 イルマの掛け声に男たちは走っていく。それを見ながら、爪をガリッと噛んだイルマは、忌々し気に低く呟く。


「あんのゴキブリがァ……!」




 さて、ゴキブリと呼ばれた男は、悠々と隠し通路を歩きながら、また屋根の上へと向かっていた。イルマが3番線に追っ手を向かわせていることなど、推測するのは朝飯前。ツメの甘さは付け所。彼への対処法なぞ、星の数ほど……は言いすぎだが、いくらでも持ち合わせているのである。

 何せ、毎日のように彼に殺されかけているのだから。


「はぁ……やだやだ。なぁんでジーノ氏はこんな抗争もどきを許すかなぁ……」


 屋根の上についた彼は、流石に体力が尽きたのか、その場に座り込んで肩や首を回している。常にパソコン作業ばかりの彼にとって、このたまにやってくる抗争という名の運動が、唯一体を動かす時間である。


「いや、わかんなくないけどさぁ。俺が死んだらどうすんの?情報マジで筒抜けなるって知ってんじゃん??」


 Nerineで一番大きな地区を持っているのが、Ziino(ジーノ) Family(ファミリー)と呼ばれる組織だ。彼が言ったジーノ氏、とは、Nerineのトップ 国王のことである。

 そしてNerineは、世界からマフィアの国と呼ばれている。つまり、地区とはそのままマフィア組織の名であり、地区の長たちは皆、マフィアの長だ。

 簡単にまとめてしまえば、Nerineはマフィア組織が集まって作った国である。


「テトさんなら死なないって、信じているからじゃないですか?」


 しまった、と、思った方が後手である。

 ぐえっ、と押し潰され口から漏れ出た汚い悲鳴は、上にのしかかってきた青年の行動を止める抑止力にはならない。どんどんと肺を圧迫されていき、呼吸が浅くなっていく。

 ——これは、死ぬ。


「でも残念。テトさんの武勇伝もここまでですね。死ぬのが怖いから情報戦を得意とし、戦いになる前に情報を売って保身に走る。世界で唯一、情報量で負けたことのない情報屋」


 その名前が今度は、誰のものになるか見ものですね。

 そうせせら笑いながら言った青年は、ゆっくりと圧を強め——


「はい、そこまで。ベル、戻りなさい」


 たった一言。

 その言葉に、ベルはピタリと動きを止めた。


「もー、ダメじゃないの、テト君殺しちゃぁ」


 はい、テト君の上から降りる降りる、とベルを引きはがした男を見て、青年は口を尖らせながら文句を口にしている。

 テトはというと、咳き込みながら空を見るために仰向けにごろりと寝転がった。

 よかった、今回も生き残れた。


「えー?でも抗争ですよ?好き勝手やっていいってルールじゃないですか」

「時間内ならね。ほら、ちゃんと時計みなさい。まったくもう」

「時計なら、開口一番に壊れましたよー……」


 テトの言葉に、あちゃー……なんて感情のこもってない声を漏らす男。

 浩楼(はおろう)地区 長 胡杰龙(フーヂェンロン)。ベルの上司であり、マフィアである。


「どうして時計壊しちゃうかねぇ……全くこの子って子はもぉ」

「壊したのはテトさんですよ、逃げるための時間稼ぎと、逃げ出す為の出口作りの為に」


 あー全部バレてる。


「言い訳しないの!もー……、龙さんが来なかったら君、レン君に怒られてたんだからね?」

「ははっ!そうなったら、ジーノと本気の抗争になりますね!」

「そうなったら、ベルは抗争に出してあげないよ」


 人を殺すこと前提に話を進めないでほしい。

 そう思いつつ、疲れ切っていたテトは特に突っ込むこともなく、ゆっくりと立ち上がって時計を見る。ひび割れてしまっているが、機械は問題なく動いており、現在時刻をきっちり示している。


 15:21


「ほら、最後の挨拶」


 龙さんに諭され、ずっと文句と言い合いを続けていたベルは、テトに向き直る。テトも同じようにそちらを向いて、懐に忍ばせていたものを取り出した。

 お互いが投げ合ったのは、1輪の花。


「『また会う日を楽しみに』」


 抗争終了の合図である合言葉を口にし、投げた花は国家の象徴 ネリネ。ダイアモンドリリィとも言われる。

 これが、Nerineの抗争のルールだ。


「…………はあ~~~~~!終わったぁ!!」


 これでまたしばらく、平和な日常が戻ってくる……。

 疲れ切って寝転がったテトは、そのまま屋根で寝てしまった。




「15時……、抗争終了の時間だね。レン」


 赤い髪を片側だけかき上げた、妖艶な雰囲気を醸し出す男の声に、レンと呼ばれた男はただ、ああ、と声を返した。


「よかったの?今日、浩楼(はおろう)Tharde(スレイド)の抗争だったけど……、テトが死んだら問題じゃない?」

「あいつは死なないだろ。悪運も強いし、……何より盾がある」

「おや、棘のある言い方だねぇ」

「……分かっていて言うな、怒るぞ」


 ギロッ、とにらみ上げれば、男は怖い怖い、と肩をすくめる。実際怖がってなど全くいないので、レンはまた更に、苛立ちを大きくする他なかった。

 とはいえ、彼にぶつけるのも筋違いなのもわかっている。小さく舌打ちをしたレンは、束になって連なる書類を見上げ、目頭をもむ。


「……で、あと何枚あるんだ……この書類……」

「ざっと3日分かねぇ」

「多くないか……?」


 既に15時は回っているのに、やってもやっても終わらないと思ったら、数日分の仕事を一度に持ってこられていたらしい。彼の能力的に確かにできる量ではあるが、ハメられた気分だ。


「ん~?……明日、教会に行くんでしょう?なら、ちゃっちゃと仕事を終わらせて、ゆっくりした方がいいんでない?」

「…………」


 結局は男の言う通りなので、レンはため息をつきつつも、ペンを持つ。

 さらさらとペンを滑らせるレンを見て、男はふっと笑みを浮かべながら、ひと息つけるように彼の好物を用意してやろうと、部屋を出た。



 レン・ジーノ。

 今年27歳を迎える彼は、Nerineの国王であり、Ziino Familyのカポ()である。

 そして、この物語の主人公は誰だと問われれば、それは間違いなく、レン・ジーノ、彼である。


※本編では、異世界転生物の予定になります。

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