出会い 2
アーベス国王…それは代々アディス家が就いていた地位である。
現在は異例中の異例,アディス家以外の者が王の地位に就いている。
先王である私の祖父が現王のエノルト・セフィーロを気に入ったというだけの理由によってである。いや,アディス家の直系である私の父が既に他界していたことも一因なのかもしれないが…。他のアディス家の者は先王の目に適わず,私もそのうちの一人だった。女という理由だけで・・・。先王は言っていた。「“この国の王になれるのはアディス家だけ”というのは間違っている。」だから他家の者を王に就かせたのだろう…他のアディス家にもそれを教えるために…。しかし,私は認めない。認めることができない。別に王の地位が欲しいというわけではない。だが,父が就くべきだったその場所に他人が居るということが嫌なのだ。それに,エノルトは純粋にこの国の者というわけではない。素性の知れぬ者にこの国を治められているということを国民が知ったとき,きっと王族並びにこの国の政治に従事する者たちへの信用は一気に失われるだろう。そんなことになる前に一刻も早く別の者が王に即位せねば・・・!!
1.
「ケイクス・ショート!!」
拳を思い切り机に叩きつけた。痛みなど気にならない。
怒りで体中が震えるということを初めて体験した。
今までコイツが行ってきたことが明らかになってきて,その報告を受けていたのだ。
この防衛省の予算のおよそ4分の1を己の私欲のためのみに使用していたというのだ。
防衛省は武器を購入する際,ある契約した会社からのみそれを行っている。その契約は2,3年に1度更新されるのだが,必ず更新されるというわけではない。契約したがっている会社は複数存在しているためだ。どの会社と契約を結ぶか,それは我々にとってとても重要な仕事の一つである。しかし,あのケイクスという者は自分への“賄賂”を贈った会社への契約を優先的にしてあまつさえ“接待”まで受けていたというのだ。
それだけではない。己の権力を笠に着て他の省庁上層部と交流を持ち,相手を脅して自分の好きに出来る環境を作って行ったというのだ。
また,一番私にとって無視できないことは,もしかしたらミチルが行方不明になったのもケイクスのせいかもしれないということなのだ・・・!私に何の恨みがある!?もしあるとするなら何故私に直接来ようとしない!?全くもって理解不能だ,別の人種にさえ思えてくる――――――…!
「副大臣について分かったことは以上です。」
「そうか…,ありがとう。その情報で大分やりやすくなる。・・・ロバート!」
既に皆で大臣室から会議室へと移り,各々が話し合っている傍ら私は秘書からの報告を受けていた。話し合いの中心となっているロバートはすぐに顔を上げ,こちらに駆け寄ってきた。
「何でしょう?」
「節約案の件だが,そのまま進めてもらうとどのくらい削減できそうだ?」
「はい。今のところでは半分削減というのはとても難しい状況です。」
少しためらいがちに言ってきた。
「ではどの程度の削減が確実だ?」
「削減できる対象は武器,人件費,経費です。それでも人件費のカットはあまり期待できません。とりあえず武器の購入を抑え改良を廃止,経費は各自が注意してなるべく減らす,ということで5~4分の1の削減ができると思います。」
「…十分だ。目標は4分の1削減で良い。」
「?しかし,予算は半分削減となっているのではないのですか・・・?」
「その通りだが,4分の1削減は私の仕事となった。つまり,君たちが考えるのは残りの4分の1だけで良い。」
2.
サーガたちが発ってすぐに2度目の爆発が起こった。しかし,明け方より近い位置で起こったのにも関わらず,この村への被害は全くなかった。
それからもう1日以上が経った。
なのにまた爆発が起こるという気配は全くない。
「…どうなってんだ一体・・・。」
「私たちが降伏してくるのを待っているのかもしれん。」
眉間にしわをよせ,苦い顔をして村長は言った。
「サーガが言っていたようにいつ敵が来てもおかしくない状況だ。サリー,お前は元々この国の者ではない。サーガたち同様逃げたって構わないんだぞ…?」
「何言ってんだよ!私はあの人と一緒になったときからこの国の者になったと思ってんだ。そんなこと言わないでよ…!!」
村長は一瞬驚いた顔をしたが,すぐに優しい笑顔になった。
「そうか…。そうだったな,すまない。この場を共に乗り切ろう…!!」
もうこの戦争を終わらせないといけないところに来ているのかもしれない。
(この戦争が終わるまで今の村人全員必ず生き残ってやる。)
そう決意した。
3.
正直言って驚いた。
此処に居る大半の者はまだ少女と言えるような者たちだったのだ。
オレにそのような趣味がないので全く理解できない状況だった・・・。
ジェミニと名乗った者が此処の最年長という理由もやっとわかった。
10代前半の少女が多いこの店は毎日のように客が来るという。
(何故ここまで放っておいたんだ,アイツは…!)
「この辺りの部屋の子たちはココへ来て1年も経ってないんだ。」
「それで十数人居るということはこの店全体で何人居ることになるんだ?」
「1年以上ココに居るのもこのくらいの人数。正直言って死んだ子の数が多い。」
「どのくらいだ?皆,兵に殺されたのか?」
「殺されたと言えなくもないが…ほとんどが病気だね。何の病気かまでは分からなかったけど,実際殺されたのは…それでも10人くらいにはなるか。」
・・・あいつらを軽蔑したくなった。
この女がなんでもないことのように話しているのは長い間その状況に置かれ,それが当たり前の事となったためだろう。しかし,辛くないわけがない。
一瞬,女の横顔が険しくなった気がした…が,すぐに無表情となりこちらを向いた。
「今日も…アイツらは来るの…?」
「来ない。此処へ居た者には国境の警備を命じた。オレが戻れと言うまで各自国境付近から離れず見張っていろとな。」
女は初めて安堵の笑顔を見せた。
4.
再び店に戻ってきたフォースという男を見たとき,正直ホッとした。
(あぁ,あれは夢なんかじゃなかった。)
店の奥,この店の女たちが休んでいる部屋へ男を案内すると男は少し驚いたようだったが,何に驚いたのかは分からなかった。
この店について男の質問に答えながら大体説明し終えた後,男は最後に店の女一人一人に事情を聞いてもいいかと聞いてきた。この店に来ていなかったはずの者を皆に確認してもらった上で使うからと。
こんなに,きちんと対等の“人”として見られたのは初めてな気がする…。
正直嬉しく思った。と同時に
「今日も…アイツらは来るの…?」
不安に思い,男に聞いた。
すると,男は当然のように即答で答えた。
「来ない。此処に居た者には国境の警備を命じた。オレが戻れと言うまで各自国境付近から離れず見張っていろとな。」
真剣な表情の男のその言葉に自然と安堵の息が漏れた。
それから,男は“他にも仕事があるので後は部下に任せて行く”と言った。
「あんたみたいな人がもっと早く来てくれればよかったのに…。」
彼女のあまりにも小さな独言が店を出ようとするフォースの耳に届くことはなかった。