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三姉妹は相変わらずお互い目を合わせず、それぞれ違う方向を見ていた。
しかし、何かが違う…。
「すみません、遅くなってしまいまして…」
「あら、いいのよ。私たちが早く来すぎたんだから。」
何なんだ…この緊張感の無い空気は…。
今まで三人揃うと言葉はケンカ腰で、こんなに穏やかな口調は聞いたことが無かった。
「あの、お茶冷えていませんか? 入れなおしてきます。」
「いいのよ。お茶ならさっきの事務員さんが…」
頭が痛くなってきた。
まさか彼女、お客さんの前であのパフォーマンスをしてないよな?
「あんなお茶の淹れ方、私たち初めて見たわ!
すごかったのよ~!
あんな大きな急須を持って踊りながら後ろに反り返って湯飲みにお茶を淹れたの!」
…やったのか…。
「私ね、一度テレビで見たことあるわ! まさか目の前で見られるなんてね~。」
…勘弁してくれ…。
「…あ、そういえば…」
「思い出したわ! ほら、小さい頃、横浜の中華街で見た中国雑技団の真似をして、私、転んで泣いたじゃない! お父さんたら、お姉ちゃんたちが私を虐めたのかって怒ってたでしょ? そうじゃないってわかって、お父さんったらお姉ちゃんたちに平謝りだったわよね~。」




