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「この話は無かったことにしてほしいんです。僕には君が、と言うか、女性が快適に過ごせる状況を与えてあげられる自信も器も無い。お互いその方が幸せになれると思うんです。」
言った。
言い切った。
終わった。
さて帰ろう!
運ばれてきたコーヒーを飲んで伝票を手に取ろうとした時、彼女の目からポロポロと涙がこぼれているのに気付いた。
「すすす、すみません! こんな失態をお見せするつもりは無かったんですけど…勝手に涙が…」
まいったな。
こんなとこで泣かれちゃ俺がなんか酷いことしたみたいじゃないか!
知ってる人やお客さんに見られたらどうすんだよ!
俺はテーブルの上にあった紙ナプキンを彼女に差し出した。
「泣かないで! お願いだから。」
「すすす、すみません!」
席を立とうとしたのを一旦止め、また席に座った。
彼女はオイッオイッとむせぶように泣き続けている。
「あの…」
後ろから声をかけられた。振り向くと、清楚なベージュのワンピースを着たキレイな女性が立っていた。