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「あれですよね…。まだ私に可能性はあるということですよねっ?」
「う~ん、えっと…」
「じれったい! 雇いたくないんですか?」
「う~ん…」
「雇う?」
「それは~」
はっきりしない俺に彼女は苛立ってきているようだった。
「じゃあ、こうしましょ! 従業員が抵抗あるなら妻ってことで!」
「何でっ!」
その日から彼女は事あるごとに第二の選択肢を織り込んでくるようになった。
「先生、鯛焼きを買って来たから食べませんか?」
彼女は二つの皿に一個ずつ鯛焼きを載せて、それぞれの皿に付箋を貼って持ってきた。
付箋の片方には「従業員」、もう片方には「妻」と書いてある。
「さあ、どっちにしますか?」
ニコニコしながら強い目力で俺に圧を加えてくる。
ある日は、外出から帰ってくると
「おかえりなさぁ~い! 先生、従業員になさる? それとも妻になさる?」
って、昭和のホームドラマかって言いたくなるような古臭い寸劇を仕掛けてくる。
返事をはぐらかす度に彼女はプンプン怒りながらも、次の瞬間にはいつも通りテキパキと仕事をした。
悪くないんだよな…。




