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「それで…どうでしょうか? 私、ここで雇ってもらえますか?」
「それなんだけど…」
「ちょっと待ってください! 私にも心の準備が!」
彼女は何回か深呼吸をした。
ものすごく長い深呼吸を何度もした。
聞くとロングブレスと言うそうだ。
ダイエットにも効果的らしい。
そんな事はどうでもいい。
「どうぞ。」
「正直に言っていい?」
そう言うと、彼女はこれから俺が言う事は、彼女にとって悪い事なのだと思ったようで、みるみるうちに彼女の眉も口角も下がってきた。
しかし伝えよう、今の気持ちを。
「初めは…あのカフェでお試し雇用の話が出たときは、少し働いてもらってほとぼり冷めたら辞めてもらおうと思っていたんだ。君がどうこうって訳じゃない。相手が誰だったとしても、他人を雇うつもりは本当に無かったんだよ。」
彼女は歯をくいしばって聞いていた。
「だけど…。」
「だけど?」
「何と言うか…。」
「何と言うか?」
「その…。」
「もうひとこえ!」
「何、その屋台の値引きみたいの。」
思わず吹き出してしまったが、彼女の顔は真剣だった。




