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「さっき、頭打たなかった? 大丈夫?」
「先生、もしかして…ずっと見てました?」
「うん。今日だけじゃなくて、チャイナドレスのやつも見た…」
「わちゃー。」
彼女は顔を手で隠した。
「ここだったら警備員に止められないんだ。」
「…公園なので。」
彼女は恥ずかしそうに言った。
「でも…やっぱり駅前広場じゃなきゃ…」
以前あれ程注意されたにも関わらず、この子はまだあそこでしたいのか?
「麗子ちゃん、送っていくよ。よかったら先生もご一緒に。」
「僕は大丈夫です。事務所はそこなので。」
家まで知っているようだし、パフォーマンスまで見に来ているし、二人はやはり付き合っているということか…。
「岩田さん、じゃあ。」
「お疲れ様です。また明日。」
彼女と男を残して俺は去っていった。
振り返ると、二人はその場から離れようとしていた。
彼女のいつもの唐草模様の大風呂敷は沢渡という男が担いでいた。
仲良さそうに何やら話しながら横断歩道を渡っている。
きっと駅地下の駐車場に向かっているんだ。
急に胸がドクンと音をたてはじめた。
そしてそれは、何か重しが乗ったように痛みを伴った。




