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「先生、掃除は一通り終わったので、他にすることないですか?」
「今日はいいよ。ちゃんと時給は出すから帰って休んで。手もこんなだし。」
「そんなこと出来ないですよ。ちゃんと時間まで働きます!」
彼女の意思は固かった。
俺はあまり負担のかからない用事を頼むことにした。
郵送する書類が溜まっていたので、宛名書きとそれをポストに出しに行くよう頼んだ。
彼女は丁寧に宛先を書いていた。
今まで掃除しかしてこなかったからもあるのか、単なる宛名書きなのに、机に座って作業をしている彼女は何だか嬉しそうだった。
その姿に罪悪感でまた胸が痛くなった。
「岩田さん、字がキレイだよね。習字やってた?」
「はい。小さいころ、いろんな習い事してたんですよ。習字、絵画教室、パソコン教室、あと親子クッキング教室にも母と少し通ったことあります。」
「先生は?」
「俺? 習い事って、あんまりしたこと無いな。部活でサッカーやってたくらいかな。」
「スポーツマンなんですね!」
万年補欠だったけどね…
「岩田さん、スポーツとかしなかったの?」
「…私、体動かすこと、あまり好きじゃないんですよ…。」
「え?」
じゃ、あの広場で見せたパフォーマンスは何なんだ?
「…ダンスとか…好きなんじゃないの?」
「ダンスですかぁ~? 全く興味ないですよ。」
「は?」




