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俺は完全に行く気が無くなっていたが、一応約束は果たさないとおふくろがうるさいので、意を決して中へ入った。
どうせ一言断れば終わるんだ。速く済まそう!
「はははは、初めまして。岩田麗子ともも申します、うぅ。」
女性は90度に体を折ってお辞儀をした。神社の神主か?
「初めまして、長谷川瑞貴です。」
俺が挨拶し終わっても女性は90度のおじぎを崩さない。
「あの…座りませんか?」
「はっ! 失礼いたしますっ!」
ようやく女性は椅子に腰かけた。
最初に見たのと同じく、限りなく浅く背筋をピンと伸ばして。
そこにウェイターが注文を取りに来た。
いつものイケメンだ。
時々ここに来るとき見かける。
きっとこの近辺の大学生だろう。
俺はコーヒーを頼み、女性に同じものでいいかと聞くと「はい」と頷いたので、コーヒーを二つ注文した。
そして改めて女性の方を見た。
彼女は満面の笑みだった。
張り付いたような、きっと彼女自身が出来得る最強の笑顔を全力で俺にぶつけてきた。
ずっとその表情をして疲れたのか?
よく見ると頬や口元が小刻みに震えている。
「あの…」
「はいっ!」