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「小学校3年の時だったかな、親父が亡くなったのは…」
レストランを出ておふくろと別れた後、事務所に戻って彼女と話をした。
騒動に巻き込んだ手前(もとはと言えば、面接と間違えた彼女の勘違いのせいでもあるが…)、我が家の事も説明しておこうかなと思ったんだ。
「それからおふくろは、俺を育てるために近くのショッピングモールで働きだしたんだ。」
「お母さま…苦労されたんですね…」
「今、あんな感じでノンキに見えるけど、当時は大変だったと思うよ。最初はパートだったし。ずっと頑張ってそれが認められて正社員にしてもらって、今では管理職にまで上りつめて、やっと楽になってきたんだ。俺も今迄の恩返しをしなきゃなって思ってて、優しくしてあげなきゃなって思ってはいるんだけど…顔合わせれば、み~く~ん! だろ? 俺の事、今でも小さな子供のような気でいるんだよ。だからついつい冷たくしてしまう…」
「お母さまはきっと…先生が小さい頃、本当はもっといっぱい構ってあげたかったけど、生活の為にそれは叶わなくて…先生が寂しい思いをしていたのを申し訳なく思っていて…あの頃の先生に対する後悔がすごく深いんじゃないでしょうか? お母さまの心の中には、まだあの頃の小さな先生がいて…きっとその子はずっと泣いているんですよ…」
「贖罪ってこと? 俺は十分幸せだけどな…」
「素敵なお母さまですね。」
彼女は俺を見てニコっと笑った。




