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麗子は母一人子一人で暮らしていた。
月に何回かだけ、父親の一郎は彼女たちの暮らすマンションへやって来た。
来るときはいつも、麗子の喜びそうなおもちゃやお菓子を山ほど抱えて来ていた。
そして綾子には花束を欠かさず持ってきた。
一郎はいつも優しく、訪れたときは麗子と飽きるまで遊んでくれた。
そして時々家族三人で美味しいレストランへ行ったり、綾子と麗子に素敵な服や靴も買ってくれたりした。
麗子は一郎が大好きだった。
一郎も麗子をとてもかわいがっていた。
そしていつも朝起きると一郎はいなくなっていた。
一郎が帰った後にやってくる朝が麗子は大嫌いだった。
生まれたときからずっとそんな状態だったので、麗子は父親というものはいつも家にいなくて、たまにフラっとやってくる存在なんだと認識していた。
しかし大きくなるにつれて、よその家では父親は一緒に暮らしていて、自分の家の方が普通でないということがわかってきた。




