33
「どうぞ。」
オフクロと俺にお茶を持ってきてくれた。
そして「失礼します」と静かに言って部屋を出て行った。
いつも使っているお客さん用の湯飲みには蓋がしてあった。…そうだ。この湯飲みは蓋つきだった。
どうせすぐ飲むし、洗うのも面倒くさいし、どこかにしまったまま存在を忘れていたのだ。
オフクロは彼女を一瞥し、そして何も言わずにお茶を飲んだ。
さっき俺にどなって喉が渇いていたのか全て飲み干した。
それからしばらく湯飲みを手に取ったまましばらくそれを眺めていた。
「このお湯呑み…あの子が漂白したの?」
「…ああ。」
「これ、こんな色だったのね…。てっきり中は茶色のデザインなのかと思ってたわ。」
「…。」
「お茶の温度も丁度よかったわ。若い子は熱々のお湯で入れたりしがちだけど…ちゃんとわかっているのね。」
「え、熱い方がいいんじゃないの?」
「まったくミー君たら! お茶の味を引き出すにはこれくらいの温度の方がいいのよ。」
「へぇ、そうなんだ…。そういえば俺が入れるより味がまろやかだな…」
俺が改めて彼女の入れたお茶を堪能していると、おふくろはさっさと事務室の方へ向かって行った。
彼女は掃除の続きで、流しの下の整理をしていた。
「岩田さん!」
「はいっ!」
彼女はしていたマスクを取って振り向いた。
今日はガスマスクでも防護服でも無かった。
頭に三角巾をして普通のエプロン姿だった。
俺はホッと胸をなでおろした。
「私、瑞貴の母です。だらしない息子ですけど、よろしくお願いしますね!」
だらしないことは無いだろう!




