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「電動も持っているんですけどねぇ~、やっぱり手で回して引きたい願望があってぇ~。あ、これ、コーヒー好きだった祖父からもらったアンティークなんですよっ。」
彼女はニコニコしながら嬉しそうにコーヒー豆を挽いた。
次は何を出すか想像がついた。
想像通り、彼女はコーヒーを抽出するセットを取り出した。
ガラスのビーカーみたいなすごくお洒落な物だった。
以前、雑貨屋で見かけてオシャレだなと思ったけど、実際使うことは無いだろうと買わなかったやつだった。
なんだよ…こんな趣味まで合ってるし、クソ…。
「どうぞ。」
彼女は昨日漂白して真っ白に生まれ変わったコーヒーマグに入れて手渡してくれた。
コーヒーの芳醇な香りが事務所内に広がった。
手間暇かけて淹れてくれたコーヒーは、俺が普段適当に入れるそれとは全く違った。
軽く敗北感に打ちのめされながら席に着いた。
しかしふと鏡に映った自分はニヤけていた。
何故だ。
ピンポーン!
嫌な予感がした。
モニターを見ると、おふくろが鬼の形相で立っている。
まずい…。




