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「失礼します。」
彼女はノックをして応接室に入ってきた。
「あら、新しい方入られたんですか?」
お客さんは以前からうちを使ってくれている常連さんの上品なおばあさんだった。
「あ…いえ…なんというか…」
まだ雇用すると決めたわけではない。
「あら先生! もしかして奥様?」
「違います!」
「…先生…もういいお年でしょ? こんな素敵なお嬢さんがそばにいらっしゃるなら、そろそろ身を固められてもよろしいんじゃない?」
「いえ僕なんかまだ…」
ふと彼女の方を見ると、お盆を持ったまま照れてモジモジしている。
やめてくれ!
そんな風に照れていたら勘違いされるじゃないか!
「どうぞ。」
彼女はモジモジしたままお茶を差し出した。
そして部屋を退出するまで何度も振り向き、そのたびにウフッウフッと照れ笑いをした。
お客さんのおばあさんは、可愛い子だわ、と彼女に向かって微笑みかけた。
「違うんです! 違うんですってば!」
「ま、いいじゃありませんか。年よりは口出ししませんよ! さ、本題に入りましょう。」
 




