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警備員は彼女を引きずり降ろそうとしている。
信号が変わった。
俺は彼女の元へ走った。
「やめろー! 離せー!」
彼女は叫びながら警備員に抵抗していた。
「あなたね、何回言ったらわかるんですか? 警察呼びますよ!」
後ろからまた別の警備員が駆け付けてきた。
まずい。
本当に警察を呼ばれてしまいそうだ。
「すみません!」
俺は間に分け入った。
「あなた、ご家族の方ですか?」
警備員は訝しげに俺を見て言った。
「それは…」
「この人は全然関係ありません。」
彼女は俺が何か言う前に叫んだ。
「部外者は離れてください。あなた! ちょっとこっちへ来て!」
警備員は彼女の手を引っ張って連れて行こうとした。
「待ってください! 妻です! すみません、僕の妻なんです!」
俺は叫んだ。
彼女は振り向いた。




