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「あんたにあげたガスマスクと防護服も舞台衣装だったの。」
「…そうだったんだ。」
「前衛的な舞台でね、私、あれ着て踊ったんだ…。ウケるでしょ?」
「ううん! カッコいいと思う! 私、見てみたい! 晴香さんの舞台。」
「…何言ってんのよ。今さら私が踊れるわけないでしょ。そんな簡単な事だと思ってるの? ミュージカルなめるんじゃないわよ! もう体だって元に戻らないわ。こんな生活続けてきたんだから…。」
晴香は頑なに抵抗した。
しかし麗子には確信があった。
晴香はまた舞台に立ちたいのだ。
あれほど汚くしていたマンションなのに、衣裳部屋だけはチリ一つ無かったことがそれを物語っている。
あの部屋は晴香の本心であり希望なのだ。
「そんなことない! 諦めてほしくない! また踊ってほしいの! パパも言ってた!」
突然、麗子の顔にクッションが投げつけられた。
「はぁ? パパだって? なにあんた、パパから愛された優しい麗子ちゃんは、引きこもりの可哀そうな姉を救いに来てあげたとでも思ってんの? あんたにパパなんて言って欲しくない! 私のパパよ! あんたが私の家族をめちゃくちゃにしたんじゃない! 出てって!」
晴香は泣き叫んで麗子を追い出した。




