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「え? 俺やだよ! 見合いなんて!」
「そんなこと言わずに会うだけでもいいから会ってみてよ!」
「その気も無いのに会うだけなんて、相手に失礼だろ!」
「会ってみたらその気になるかもしれないじゃない!」
おふくろは嫌がる俺にしつこく見合いを迫ってきた。
「今日これからお客さんが来るんだよ。用が無いならもう帰って!」
「お客さんが来るならママお茶だしてあげるわ! ミー君、自分の事務所を開いてからもう何年も経ってると思ってるの? てっきり何人か事務員さんを雇ってるって思ってたのに、ここ、誰もいないじゃない! 所長自らお茶出しなんて格好悪いわよ!」
「いいから! 自分でやるって! お客さんだって格好悪いなんて思わないよ。」
すでにキッチンに行ってお茶の準備をしようとしている母親を必死に止めた。
「もうあんたは~! ママ、お手伝いしてあげようとしてるだけでしょ!」
「いい年した息子に向かってママって言うのやめて! それから俺の事ミー君って呼ぶのもやめて! その方がお茶出し自分でするよりよっぽど恥ずかしい…」
「何言ってんのよ、まったく! 司法書士の先生だなんて偉そうにしてるけど、この事務所の散らかりようは何なのよ! キッチンなんて腐ってるじゃない!」
腐っているとは失礼な!
確かに洗い物を溜まってはいるけど腐ってはないぞ!
それに多少部屋が散らかっているのも仕事が順調に舞い込んできて片付けをする暇が無いだけじゃないか!
親だったら褒めてくれてもいいくらいだ。それなのにおふくろはブツブツ文句を言いながら、自分で持ってきてすでに着ていたエプロンを恨みがましそうに脱いで俺を睨んでいる。
マーキングの代わりなのか、それをコッソリ置き去りにしようとしていたが、俺はとっさにそのエプロンを取って、おふくろのバッグに押し込んだ。
そしておふくろの背中を押すように玄関へ誘導した。




