にわ
逃げるのは得意だ。
廊下に出て、そこに人影がないことをぱっと確認した猫はたっと窓枠を越えて跳躍した。
この棟には初めて来たので外に出ないと帰り道が分からないからだ。
来た道を戻ってもいいが、ごとうしゅさまの部屋がある辺りは人が多い。
バランスを取るために、くるりと一回転して軽やかに着地すると猫の瞳に色鮮やかな世界が広がった。
ここは。
赤、青、緑。いろんな色の花が綺麗に咲いている。
大ぶりで華美なものから小さな可愛らしいものまで種類も様々だ。
それから小鳥を模した蔓のアーチがあったり、テーブルと椅子、よくわからない形の像なんかも置かれている。
…どうやらたまたま降り立った場所は庭園らしかった。
ここに人の気配はない。
まだ警戒はしているものの、どうやら無事逃げ出せそうだと猫はホッと息をついた。
状況が状況だけに慌てて逃げてしまったが、冷静に行動すれば猫を捕まえられる人間はここにはいないだろう。
間一髪で危なく酷い目に合うところだった。
あんなに人がいる場所で武器を手放す、ましてや服を脱いで裸になるなど自殺行為に等しい。
いつもは深く被っているフードを外しているだけでも本当は嫌なのだ。
ごとうしゅさまがいつも言うので外していたが。
___そう、ごとうしゅさま!
あの時、絶対に絶対に猫が嫌がることが分かっていて言わなかったに違いない。
今までずっと優しかったのですっかり騙されてしまった。少しは信用していただけに腹立たしい。
庭園は緑を這わせた高い塀でそこかしこが区切られていて、先が見通せない上にくねくねと道が曲がっていて入り組んでいるようだ。
ここにいても仕方が無いので猫はひとまず歩いて出口を探すことにした。
ごとうしゅさまは猫ごときに構っている暇はないと思うが、命令に背いてしまったので罰を受けないようなるべく早く外には出たい。