あお
「さて、今日お前を呼び出したのは実は仕事じゃないんだ」
猫の頭を満足するまで撫でた後、リュシフェルはそう言った。
仕事じゃない…?
そういえばいつもの仕事なら呼び出しは夜になることがほとんどだ。なにか変わった依頼かと思っていたが、そもそも仕事じゃなかったとは。
じゃあ一体なんなのか。猫にはそれ以外でごとうしゅさまに呼ばれる覚えはない。
どうやら疑問が顔に出ていたらしい。
猫を見てごとうしゅさまは少し笑った。
「不思議そうだね?」
手を引かれるままにソファに座らされる。
反対に立ち上がったリュシフェルは書類が散らばった机の上からあるものを手に取った。
「これに見覚えは?」
「っ」
猫は息を呑んだ。
それは古ぼけたペンダントだった。
中心に碧色の宝石が埋め込まれていて、その周りをぐるりと囲むように蔦の模様が彫り込まれている。
綺麗な細工ではあるが、全体的に汚れていて売りに出したとしても価値はそれほど高くないだろう。
__猫以外にとっては。
「これ…?」
思わず手を伸ばしていた。
勝手に触れそうになり、さすがに怒られるかとごとうしゅさまの顔を伺うと思いのほかあっさりペンダントを渡してくれた。
猫は恐る恐る受け取ったそれをぎゅっと大事そうに両手で握りしめた。
様子を見ていたリュシフェルが苦笑する。
「やっぱりそうか」
ごとうしゅさまが見つけてくれたのだろうか。
そう思って見上げるとこちらの意図が伝わったのだろう、私ではないよ、とリュシフェルは首を横に振った。
では仕事中に落としたのだろうか。
でもなぜ、ごとうしゅさまが持っている…?
「…さるお方から要請があったんだ」
猫はあまり状況を理解できずに首を傾げた。
「そのペンダントの持ち主を探すように、ってね」
リュシフェルが珍しく探るようにこちらを見た。怒っているのだろうか。
「まったく私のかわいい猫は一体なにをやらかしたんだろうね」