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眠りを誘う香り

久々の投稿です。



「ないわー、いや、やっぱりないわー」



クラウス様から婚約者候補の矢面に出ろと言われて、引き受けたわ良いが後悔しかない。

夜会から戻り自室に引きこもりぶつぶつと呟く。



「にゃーん」



愛らしく可愛い声が聞こえ、顔を上げれば私の足元にロイド様。

もこもこ、もっふもふにくるくるしたグレーの豊かな毛を持つ甘えん坊の私のにゃんこだ。



「ロイぴょん、どうしたのー?にゃーんなのー?ママのお膝に来たいのー?」



私の足元から一歩軽く後ろへ下がり、上を見て身を乗り出したり引っ込めたりしながらロイド様ことロイぴょんは私の膝の上へと狙いを定める。

お外では一応世間体もあるのでロイド様と呼ぶようにしているが、家の中だとロイド様のことはロイぴょんと呼んでいる。

それは、彼がライオネル様に比べてよく飛び跳ねているからだったり。



「ぅにゃ!」



短く鳴いたかと思うとあっという間にロイぴょんは私の膝の上へと飛び乗ると、よっこらせとでも言いたげに腰を下ろし、両前足をたたみ込む。



「可愛いねぇ~」



猫という生き物の温もりにほわんと心が和む。

なんて幸せな時間なんだろう。



「にゃー」



もはや、クラウス様のクの文字すら忘れ去ってロイぴょんをなで回しながらにまにましていると、もう一匹の愛しい声。



「らいにゃん!」



私の足元に来てじっとりとロイぴょんを見つめながら美しい青い瞳をライオネル様こと、らいにゃんはこちらへ向ける。



「にゃーん、らいにゃんもママのお膝に来たいのー?」



ツンデレにゃこのらいにゃんには珍しいじゃないかとにまにましていれば、コホンと後ろから咳払いが聞こえる。



「お嬢様、顔が歪んでおります」



「失礼ね、可愛く愛しいにゃんこ達を前にして笑顔になるのは悪いことではないわよ?」



メイドのメリッサがあきれながら声をかけてくる。



「お嬢様の場合、普段が無表情なのでそのように顔面崩壊レベルで笑みを浮かべられると、悪どい何かを感じてしまいます」



「メリッサ、あなたはその失礼な発言を言う為に来たのかしら?」



いつもの事ながら、刺々しいメリッサの発言に辟易しながらそう言えばメリッサはいいえ、と首をふる。



「もう、夜も遅いので、お休みの準備に参りました」



メリッサはそう言うとドレッサーへと私を促す。

毎夜不眠気味の私がよく眠れるように、一杯のハーブティーと、髪を寝る前に整えるのが彼女日課であり、私の1日の終わりの合図だ。



「もうそんな時間なのね」



「いえ、いつもより今夜は少し早めに参りました。先程クラウス様よりお嬢様へ贈り物が届きましたので」



メリッサはそう言うと、ドレッサーの脇に茶器を用意すると、綺麗なキャンドルを私に見せてくる。



「なんでも、良い香りのするキャンドルで、よく眠れるのだとか」



「ふーん」



要するにアロマキャンドルということだろう。この世界にそんな物があったとは。くん、と匂いを嗅ぐとほんのり甘い香りと、爽やかなオレンジの匂い。



「良い香りね、」



この甘い香りはなんだろうかともう一度キャンドルの香りを嗅ぐ。



「甘い良い香りですよね、フレグラントオリーブの香りだとか」



メリッサにそう言われへぇと呟く。



「意外とクラウス様良い趣味しているのね」



「気に入りましたか?」



「そうねぇ、キンモクセイなんてなんだか懐かしいし、」



日本では秋になるとそこらで香っていたなぁと思い出しながらキャンドルをメリッサに渡せば、メリッサはキャンドル置きにそっとキャンドルを置くと、そこに灯りをともす。



「さぁ、髪を整えましょう」



部屋の灯りを暗くして、メリッサにそう言われ私はろいぴょんを抱っこしながら、ドレッサーへと移動するとスツールへと腰を下ろした。



先程足元にいたらいにゃんも一緒になって移動してくる姿に思わず笑みが溢れる。



「お嬢様、他の人間にもそうやって微笑んで下さいませ」



私の厄介な髪に櫛を通しながらメリッサはそう言葉を落とす。



「あら、私にだって愛想笑いくらい出来るわ」



「知っております、私が言いたいのはそのような事ではなく、もっと打ち解けてはいかがですか?と言っているのです」



「打ち解けているじゃない」



人見知りな私にとっては、公爵令嬢という立場上、それなりに人と接しなくてはいけないし、これでも頑張っている方だと主張すれば、メリッサは小さくため息を溢すと私にお茶を勧めてくる。



「今夜の夜会はどうでしたか?」



メリッサから茶器を受け取りそっとカップへ口付けるとそう尋ねられる。



「別に、どうもしないわ」



いや、クラウス様に表向きはまだ婚約者候補で居てくれてと頼まれたが、そんなこと一々話すほどのことでもない。



「...クラウス様はお嬢様に心を砕いて下さっていらっしゃるご様子ですが、お嬢様は本当にマッテオ様と婚約でよろしいのですか?」



丁寧に髪をとかしながらメリッサが尋ねてくる。

確かに、普通王子様との婚約を投げ売ってまで浮き名の多い画家と婚約する者は稀だし、幼い頃から私のメイドである彼女が言いたい事はよく分かる。



「クラウス様にはクラウス様、ひいては王家の考えがあるのよ。私に王家は合わないわ。何より愛しい子達と離れなくてはならないし」



そう言って足元で丸まってるらいにゃんと膝の上で目を細めるロイぴょんを見る。



「ですが、お嬢様はマッテオ様のことを特別お慕いしているわけではないですよね?」



「そうね。でも、結婚とは本来そう言うものではなくて?」



本来家同士が話し合って決めるものでそこに当事者の意思はない。私の場合猫との自由な暮らしが欲しくて家格を選らばなかっただけ。相手に愛情など無いが、猫さえ守れればそんな事どうでも良い。まぁ、辛口の割りに心配性で主思いのメリッサは納得がいかないのでしょうが。



「分かっております。ただ、私は家格が無い方に嫁ぐならせめてお嬢様がお相手の方を慕える方が、そしてお相手もお嬢様を愛して下さる方が良いのではと思うのです」



そう言うとメリッサは鏡越しに私の瞳を覗き込む。



「ご自分でも分かってらっしゃると思いますが、貴女は誰よりも繊細なのですからもっと慎重に考えて下さい」



ピシャリとメリッサはそう言うと櫛を置いた。



「厳しいわね」



「あなたがお小さい頃からお側に居たのです、当たり前です」



そう言うとメリッサは私の膝からロイぴょんを抱き上げると視線で私へベッドへ行けと促してくる。

20歳近く年の離れた彼女には私がまだまだ小さく甘えたな子供にでも見えているのだろうか。



「寝るから、そんな目で見ないでちょうだい」



彼女からロイぴょんを取り返してそう言えば、やれやれと言った感じでメリッサはため息をついた。



「セリカ様、貴女にはあなたの魅力があります。そうやって強がらずに、猫達に貴女が甘えるように、周囲の人間にもっと本音をお話し下さい。

貴女は誰よりも愛されるべき方なのですから」



メリッサはそう言うと、これ以上私の反論を聞く気は無いらしく、ペコリと私に頭を下げる。



「分かったわ。少し時間をちょうだい、苦手なのよ」



思っていることを伝えるのは難しい。ましてやネガティブな感情だったりすると。だからそう言ってメリッサに笑いかければ彼女は柔らかい笑みを返してくれる。



「時間がかかろうとも、待ちます」



「ありがとう」



彼女の言葉に少しだけ心を軽くしてそう伝えれば、安心したのか欠伸が一つこぼれ落ちる。



「どうやらお疲れのようですね」



彼女も無理に今夜聞き出す気は無いのだろう。その言葉を合図に私はベッドへと潜り込む。



「今夜はゆっくりお休みください」



「そうするわ、ありがとう」



メリッサの言葉にそう呟いて抱き抱えて眠っているロイぴょんを一撫ですれば足元辺りに重みが加わる。きっとらいにゃんが足元にのっかかって来たのだろう。



「また明日の朝、伺いますね」



「ええ、おやすみなさい、メリッサ」



「はい、お嬢様」



メリッサのその声を最後に瞼がゆっくり降りてくる。

思った以上にキンモクセイのアロマキャンドルは私を眠りへと誘ってくれるらしい。




鼻腔を擽る香りにふわふわと気持ちを乗せて私はゆっくりと眠りへと落ちて行った。




フレグラントオリーブって、キンモクセイのことだそうです。

実は最近買ったキンモクセイのアロマオイルがすんごく良い香りで登場させてみました。

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