新たな物語の幕開け
なんとなく、更新出来そうな気がしてまたまた更新。
ブックマーク登録が徐々に増えて来て嬉しい今日このごろです。
これは、一体全体、何がどうなったのだろうか。
私は軽やかにステップを踏むクラウス様に身を委ねながら考えを巡らす。
ルイス様がクラウス様の使いで私の元に来て、それからクラウス様の元へと行けばやっと来たかと呟かれ、いきなり手をとられたかと思うとそのまま踊るぞ、と。
申し訳ございません、意味が分かりませんわ。
「あの、クラウス様、」
くるくる踊りながらも、考えを巡らせ控えめにクラウス様に私は声をかける。
「ん?どうかしたか?」
私の声のトーンに合わせてクラウス様は首をかしげながら呟く。
「いえ、あのですね、私は何故クラウス様と踊って居るのでしょうか?」
「俺が誘ったからだろう?」
いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけど、そうじゃないのだ。
どうしよう、この王子様、マッテオ様のおっしゃる通りポンコツかもしれない。
「私が、聞きたいのはそう言う事ではなくてですね、私がクラウス様と踊る必要性はございますか?ということを伺いたくてですね」
周囲の視線や聞き耳を気にして、クラウス様へ少し身体を寄せて小声でそう話せば聞こえ辛かったのか、腰に回された腕を引かれてクラウス様との距離が一気に縮まる。
ヤバい、これでは私が周囲からクラウス様の婚約者候補だと思われてしまう。
「その事か。まぁ、セリカ、キミが自身の都合でこちらの縁談を断る事は承諾したが、こちらにも都合があるからな」
耳元で囁きながら何でもないようにクラウス様はそう言う。
いや、ちょっと、耳元は、ちょっと。
「つまり、そちらとしてはまだ私に矢面へ立てと?」
全身に立つ鳥肌をこらえながらクラウス様から顔を背けてそう呟く。
「話が早くて助かる」
話が早くてって、そんな、私はまだ承諾していない。ましてや矢面へ立てってことは、周囲から見たら私が婚約者最有力候補に見えるようにしろと言うことよね?
「私が心に決めた方が居るのをご存知ですか?」
案に嫌だよと意味を込めてそう言えばクラウス様は小さな笑みを溢した。
「俺はセリカの頼みを聞いたよね?」
柔らかく、それは甘い口説き文句のように、普通の乙女達が見たら一瞬で魅了される王子様の微笑みをクラウス様は浮かべた。
「...せめて理由を、」
「色々あるけどね、王家としてのメンツを保つための時間をもらいたいんだ」
それくらいは問題無いよね?まさかキミの都合での破談なんだし、と副音声でも聞こえて来そうなくらいの、眩い笑顔を向けられる。
腐っても、ポンコツでも王子。一目を引いて目眩ましの笑顔を浮かべるのは王家の血筋らしい。
いつの間にか周囲の令嬢達の視線がうっとりとしたものへと変わっている。恐らく、客観的にみて見目麗しい似合いの二人だと思われているのかもしれない。
これでも私は、笑わずの華と陰で呼ばれ、令嬢達から嫉妬と妬みとほんの僅かな憧れをこの顔に抱かれて居るのを知っていたりする。
あまりクラウス様から、王家の秘技だまくらかしの微笑みを引き出すのは良くないと思った私は覚悟を決め、意識して口角を上げた。
もとよりマッテオ様との婚約発表もまだで内々の者しか知らない。
「よろしくてよ」
一言、クラウス様の耳元に唇を寄せて私は囁いた。
その瞬間、クラウス様の表情から微笑みが消え、引きつった笑みが浮かんだ。
主人公、モブなのに全面に出ると言う矛盾。
仕方ない、乙女ゲームではモブでもこのお話の中ではヒロインであり、主人公だから。