繋がる縁
「今日も、相変わらず沢山の乙女をたぶらかしておりますのね」
扇で口元を隠してふふ、と笑みを溢す。
アメジストの瞳に白銀の髪を持つアーリヤが笑うと、天使の微笑みだと称されるのに、同じ瞳と髪を持つ私が微笑むと、周囲の大人達が引きつった笑みを浮かべるのは私にとって、もう慣れっこだ。
今、目の前に居るクラウス様も例に漏れず引きつった笑みを浮かべている。
「セリカ、あまり人聞きの悪いことは言わないでくれないだろうか?」
仮にもこの国の第一王子、未来の国王であるクラウス様はどうやら外聞を気にしていらっしゃるご様子。
「まぁ、クラウス様ったら、ほんのジョークですわ。クラウス様があまりにも沢山の花々ととても素敵な時間をお過ごしのご様子だたから、私、新しいお花を摘んで参りましたの。クラウス様は先程まで野花の観賞にお忙しそうでしたから、アイリスやデルフィニウムもなかなかに素敵なので」
そう言って私はアーリヤとフィリア様に挨拶をするよう目配せをする。
「はじめまして、クラウス様。私アーリヤ・アラン・エピナスと申します。本日はお招き頂きありがとうございます」
私よりもずっと出来の良い妹は、天使の微笑みと称される柔らかな笑顔を浮かべてクラウス様に挨拶をすると、完璧な淑女の礼をとる。
「・・・、こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ない。私はクラウスだ」
一緒惚けたようにアーリヤを見て、それから私の顔と見比べて、我に返ってクラウス様は穏やかに挨拶を返す。けれども、ええ、私にはわかってます、似てないと言いたいのでしょう?ほぼ同じ造形、大体同じな配置に色、なのに私とアーリヤの雰囲気があまりにもかけ離れているのは、私でも知っている事実ですから。
「で、ご紹介が遅れて申し訳ないのですが、このお可愛らしい方がシャルマント家長女のフィリア様ですの」
本来ならば序列が上であるフィリア様を先に紹介しなくてはいけなかったのだが、我が妹様がお綺麗な王子様に目がくらみ先走ったため、仕方なく私がフォローを入れながらフィリア様を紹介する。
「こうしてきちんとご挨拶するのは初めてですね。セリカ様に只今ご紹介あずかりました、私フィリア・マル・シャルマントでございます」
穏やかな笑みを浮かべてフィリア様は優雅に淑女の礼をとる。
「そうだね、フィリア嬢には過去に何度か話をさせてもらったけれど、こうして公式の場は初めてだね。知ってると思うけど、俺はクラウス・A・メルキオール。今後も宜しく」
そう言ってクラウス様は恭しくフィリア様に礼をとった。
どうやらクラウス様の中でフィリア様は合格らしい。王子様という職業柄仮面をつける事の多い彼は、一人称を砕けて使う相手は自身の中で認めた相手なのだと遠い過去に言っていたような気がする。
フィリア様とクラウス様が無事に互いを認識し合い、私の本日の役目も今日はこれで終わりだと一息ついて、ふと周囲を見渡せば女王様と目が合う。
彼女は優雅に微笑むと、そっと音楽隊へダンスを踊れるような曲を演奏するよう合図を送る。
ゆっくりと穏やかな優しい音楽が流れ出て、まるでそれが当然とも言えるかのようにいつの間にかクラウス様はフィリア様をダンスに誘ってホールへと出る。
誘われなかったアーリヤは少し頬を膨らませていたが、他の男の子にダンスに誘われると笑顔を浮かべてホールへと向かって行った。
さて、少し休みますか。
ハーブをシロップに漬けた甘いドリンクを給仕から受け取って私はゆっくりとバルコニーへと出た。
ころころとセリカの口調や語り口が変わるのは彼女の人格が、TPOで使い分けて居るからです。
セリカさんは前世はただの日本人なので、素のままの意識だと話方や語り口が貴族社会の中では少し乱暴かもしれません。
そして馬鹿丁寧な時は大抵嫌味だったりします。
セリカは辛口の毒舌娘です。