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私の愛しいお父様

そんなオペラがあったよね。




ぼんやりと庭を眺めながら考える。



いや、だって、手詰まりなんだもの。

マッテオ様は実はクラウス様と異父兄弟。そんでもって、実はその事実は城で働いている古い家臣達は皆知っている公然の秘密で、最悪な事に何故か最近クラウス様の興味が私に向いている。更によろしく無いのは、マッテオ様は結構クラウス様に劣等感というか、仄暗い感情を抱いているということ。




「攻略本欲しい...」



ため息交じりに呟けば、コホンと咳払いが聞こえ私が顔を上げればそこにはメリッサの姿。



「先日マッテオ様の元から帰られてからずっと浮かない表情を浮かべてますが、いい加減そろそろシャキッとして下さいませ」



「メリッサ、あなたには思いやりは無いの?」



ため息交じりにメリッサにそう言えば、彼女はにこりと微笑む。



「私は別に構いませんよ、お嬢様がその不甲斐ないお姿を旦那様に晒しても」



笑顔でとんでもない事を口走ったメリッサに、私は姿勢を正した。



「お父様、ですって?」



「はい、先程屋敷に戻られまして、服装を改め次第こちらにいらっしゃるかと」



「それを先に言ってちょうだい」



ニコニコしながら話すメリッサを背にして私は取り急ぎ身なりを整え始めた。お父様がこの部屋へ向かってくる、それは私にとって何よりも優先させなくてはいけない案件だった。



「あら、足音が?あと20秒って所でしょうか?」



ドアに耳を傾け、メリッサがそう言えば、私は慌て脱ぎ捨てていた靴を履き、髪をまとめ上げる。



「あと、10秒ですね、」



メリッサはそう言いながら笑顔でカウントダウンを始める。

サッと口紅を付け直し、椅子へと腰掛けティーカップを持つ。

3、2、1と、メリッサが呟く声が聞こえる。ギリギリセーフだ。



「ただいまー、セリカ」



何の前触れもなく、勢い良く扉が開くとにこやかな笑顔を浮かべたお父様。ロマンスグレーの髪を後ろに撫で付け、私と同じアメジストの瞳を持ち、アーリヤ同様人好きする笑顔を浮かべた天使の皮を被った悪魔のような老獪、貍爺、リチャード・ミカエル・エピナスだ。



「おかえりなさいませ、お父様」



お父様の登場に小道具として持ったティーカップを優雅にソーサーへ戻し、ゆっくりと立ち上がり、完璧な礼をして、外行きの笑みを張り付け、品良く挨拶をする。



「うん、今日も上手な挨拶だったよ、セリカ」



ニコリと笑うとお父様は穏やかに微笑む。

その反応だけで今の私の反応は及第点でしか無いのだと理解する。外務大臣である父はいつもそう、こうやって予想外の突撃訪問をして、私やアーリヤの対応力を査定するのだ。因みに、及第点すら取れないと恐ろしい事が待っている。



「今後も精進致しますわ。それよりもお父様、どうぞおかけになって下さい。メリッサ、お茶を」



通常なら父親の書斎に呼ばれて色々お叱りを受けたりするのが世間一般の貴族令嬢達だと思うが、私の父は違う。外務大臣と言うだけあって、フットワーク軽く、アグレッシブなお父様はそう、何かあると大抵ご自分からやってくるのだ。



「ありがとう。私も仕事の途中でね、またすぐ立たなければならないから手短に済まさせてもらうよ」



世間ではポンコツ外務大臣と呼び名の高い父だが、それは全て彼の手のひらの上で情報操作された呼び名という位に緻密に準備をし、策を張り巡らす父が、手短に、要件のみを話す、ということに私はヒヤリとしたものを感じる。絶対、可及的速やかに片付けなくてはならないということだ。



「このままの状態は非常に良くないよね」



何が、とは言わない。言われなくても分かっている。



「セリカ、私は相手は家に利益をもたらしてくれるなら誰でも良いんだ。だけど、キミのせいで若い獅子達が張りつめた空気を漂わせると色々良くないんだよ。関心が無くても良いから、早く決断しなさい」



話しはそれだけだよ、と言うとお父様はメリッサが用意したお茶を少し飲んで立ち上がった。それにつられて私も見送りの為に立ち上がる。



「ああ、そうそう、もし、殿下に興味が無いならアーリヤにあげなさい。キミは姉だろう?」



部屋の扉を半分開けて笑顔を浮かべたままお父様は私にもう1つの課題をだす。



「...アーリーの為に努力致しますわ」



冷えていく心に仮面を張り付けながらそう答えれば、お父様は良い子だ、と一言呟いてそのまま部屋を出ていってしまった。



「メリッサ、便箋の用意をお願い」



お父様の去って行った扉を無感情に見つめながら、私はポツリと言葉を溢した。




いつも愛読ありがとうございます!


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