嫉妬にご注意
主人公、自分の幸せ探し始めました
自分が幸せでないと、他の方を幸せに出来ない、とメリッサからのアドバイスをもらって考えた私は、まずマッテオ様と交流を深めようと思い彼のアトリエを訪ねた。いや、ほら、だってやっぱりまずは婚約者を愛する努力って必要だと思うの。
なのに、なんで、
「私がモデルになっているのかしら?」
いや、うん、マッテオ様の仕事場に来た私が悪いのかもしれない。彼は描く事に関しては真摯だから。でも、こうやって座っているだけなら愛も何も深まらないと思うんだけど?
じと目で絶好調お仕事中なマッテオ様を見れば、思いの外真剣な眼差しでカンバスへと筆を走らせている。女性関係はとても華やかな彼だけど、こういう所はとても好感が持てるなぁと思っているのは事実で、私はため息を溢すと彼に言われた通り、ソファーで寛ぎながら再び本へと目を落とした。
彼のお仕事モードが終わったらゆっくり話そう。
ゆっくり、ゆっくり、、、
「んー、、、?」
あれ?ここどこだっけ?とか思いながらキョロキョロ周りを見渡せば、沢山の観葉植物に、仄かなランプの灯り。所狭しと並べられている沢山のカンバスに、空気に交じる絵の具独特の香り。
あ、マッテオ様のアトリエだ、そう思って自分がいつの間にか眠っていた事に気付く。
「え、嘘、ちょ、今何時よ?」
腕時計なんて便利な物はなくて、辺りに時計は無いかと見渡すが、そんなもの当たり前に無くて内心でプチパニックになる。マッテオ様も居ないし、一人でここに居るのも考えもので、どうしよう。
「ぷっ、」
キョロキョロ周りを見て考えて居ればどこからともなく吹き出した笑い声に私は視線を向けた。
「マッテオ様!」
「セリカは一人言が案外多いね」
「申し訳ございません、すぐに考えが口を出てしまいますの」
要らぬ場面を見られていた事に不貞腐れながらそう言えば、マッテオ様はケラケラと笑い出す。
「キミは可愛い人だね」
「からかってますの?」
マッテオ様の言葉にムスッとしながらもそう切り返せば、彼は失礼、と首を振る。
「いや、そうじゃないよ。想像してたよりもキミが普通の女の子で安心したという話さ」
失礼な。
「今、失礼な。と思っただろう?そう言う所が凄く可愛いと思うよ」
マッテオ様はそう話すと私の隣へと座ってくる。
流石プレイボーイ。褒めるのも、距離をつめるのもいつの間にかあっという間だ。
「さて、放置して悪かったね。まぁ、思う存分俺はセリカの寝顔を描かせてもらえたけど。なんだっけ、今日は?婚約者としての愛を深めに来たんだっけ?」
意地悪気な笑みを浮かべてマッテオ様はその瞳に私を映す。
「いや、そう、です、けど、そうじゃなくて、ですね、」
プレイボーイだから成せる技なのかいつの間にかじわりじわりと彼が迫って来ていて、両手で彼を押し留めながら私は言葉を溢していく。
「愛を深めるってこういう事だと思うけど、違うかな?」
そう言ってマッテオ様は彼を押し返す私の手を取ると、手のひらへと口付けてくる。
「いや、ち、違います!そもそも、私は婚約者であって、まだマッテオ様とは夫婦ではありませんし、」
内心で悲鳴を上げながらそう言えば、マッテオ様はクスクスと笑う。
「そうだね、まだ婚約者だ。それも未発表の。だから噂が立つんだろうね、クラウスがエピナス家のご令嬢にご執心で毎日遣いの者がエピナス家へ出向いて門前払いを受けてる、って」
にこり、とペリドットの瞳を輝かせて微笑む彼の笑みは王族顔負けな位に目映く美しい。これで瞳の色が碧ならば、クラウス様に似ていると囃し立てる令嬢も多いだろう。
そんな事を考えて居れば何故だかマッテオ様の瞳を見ていられなくて、私は彼から目を反らした。
「...関心しないな、俺を前にして他の男を浮かべるなんて、」
どこでそんなこと覚えたんだい?と声を落として耳元に囁きかけてくる。
怒ってらっしゃる、そう直感的に分かるもどうして良いのか分からない。目を見ればクラウス様を思い出す。背中にはソファー、前にはマッテオ様、物理的にも心理的にも四面楚歌で、肝心な所で私の頭は回らない。
「く、クラウス様とは何もありませんわ!」
とりあえず何かを言わなくては、そう感じて口走ればマッテオ様はすうっと瞳を細めてこちらを見てくる。
「知ってるかい、セリカ。俺と火遊びしたご婦人方は夫に向かってキミと全く同じ事を言うんだ」
射抜くような冷たい目でマッテオ様はそう言うが、私の言ったことも事実だ。
それに、自身は火遊びしといて私にはお咎めアリなのも納得いかない。
そうこう思ううちになんだか段々腹が立ってくる。
クラウス様にしても、マッテオ様にしてもここの男共は勝手だ。それとも二人とも金髪だからチャラいのか?それに、見た目もよくよく見れば似ているし、中身も似ていてポンコツなんじゃないか?とか思えてくる。
「......分かりましたわ。では、クラウス様が私にしたのと全く同じ事をマッテオ様にして差し上げますわ。それが火遊びかどうかはご自分で判断して下さいまし」
段々と血の登った頭でそう言うと、私はマッテオ様の襟首を掴み彼を私へと引き寄せた。
個人的に男の嫉妬は大好きです。