好奇心は猫を殺す
久々更新!
ちょっと進展?
「それで、今日の予定は?」
目覚めのハーブティーを飲みながらメリッサに尋ねれば、ため息をつく。
「主に向かってため息なんて、本当に失礼ね」
彼女にため息を返しながらそう言えば、メリッサは口を開いた。
「ご自身でスケジュール管理をされているお嬢様が私にそう尋ねてくる時は大抵無理な予定をねじ込みたい時ですから」
「無理かどうかはやってみないとわからないわ。ということで、メリッサ、私、本日の午後にシャルマント家のフィリア様とお忍びで市場に行きたいの。早急にアポイントをとってもらえるかしら?」
にこやかな笑顔をメリッサに向ければ、彼女はため息をつくと、返事もせずそのまま部屋を出て行った。
公爵家長女である私のお願いが叶わないことなどほぼほぼ無い。今回、メリッサに頼んだフィリア様とのお出かけは、シャルマント家が同じ公爵家とは言え我が家よりも、家格がわずかに上の家だったのでもしかしたら難しいかもしれないとは思っていたけれど。
「フィリア様はこうして市場へ来るのは初めてですか?」
キョロキョロと周囲を見回しながら、瞳を輝かせているフィリア様がまるでおもちゃを与えられたライオネル様みたいで微笑ましくて、愛らしくて内心でニヤニヤしながら尋ねると、ええと短い返事が返ってくる。
「でも、何故セリカ様は私をこのような所へ?私達ってその、ほら、そこまでご縁があった関係ではなかったでしょう?」
少しためらいがちにそう言うフィリア様に私は笑顔を向けた。
「ええ、そうですね。客観的に見てしまえば、お妃候補のライバルですわ」
私がそう話すとフィリア様は戸惑いの色を瞳に浮かべる。ちょっとつり目で、猫のようなアーモンドアイに、ライオネル様の瞳を重ねて内心で可愛いなぁと思いながら私は話を続ける。
「まどろっこしいのは私苦手なので、はっきりお伝えしますね。私、お妃候補から降りたいんです。そして、出来ることならばフィリア様に私はお妃になって頂きたいのです」
きょとんとした目でフィリア様は私の顔を見る。
「お妃になりたくない、なんてフィリア様からは信じられない話かもしれませんが、私はクラウス様を慕っている訳でもないですし、王族になりたい訳でもないんです。飼っている猫達と穏やかに暮らしたいだけなんです」
信じられない、とでも言いたげな瞳が黙って私を射す。
「嘘だと思うのならば今日、一度だけで良いので私の言う通りに動いて下さい。そうすれば、クラウス様と絶対お近づきなれます。それとも貴女は侯爵家のアリス様に妃の座をお譲りしますか?」
トドメの一言。悪魔の囁きのような私の一言に、悪役令嬢の素質を持つフィリア様が従うのはそう難しいことでは無くて、私は彼女にこれから起こるクラウス様とアリス様の恋愛フラグイベントの説明をした。
クラウス様ルートの詳細を全部は覚えていないのだけど、今回のだけは覚えてる。何故って、このイベントを成功させないとクラウス様ルートに入れないから。
普段から市民の生活が知りたくてお忍びで市場に訪れるクラウス様と、そんな噂を耳にして好奇心で市場に繰り出した天真爛漫なアリス様が市場のいざこざで出逢うのだ。
肝心なのはそのいざこざでクラウス様に出逢った後、どうして貴族のアリス様が市場に居たのかとクラウス様に聞かれて素直に王子様に憧れてもしかしたら逢えるのではないかと、乙女らしいピュアさをアピールすること。
ゲームでは基本的にピュアで素直にクラウス様に憧れの気持ちをぶつけるアリス様に彼は惹かれるのだ。
貴族らしいフィリア様にはちょっと難しいかもしれないけど、彼女には彼とゴールインしてもらって、私に安泰にゃんこライフをもたらしてもらわなければならない。
「良いですか、フィリア様、素直にクラウス様にお逢いしたかったと、そうお話し下さいね?」
「え、ええ」
少し戸惑いながらもフィリア様は頷く。もうそろそろだ、もうそろそろで暴れ馬に子供がぶつかりそうになるイベントが起きる。
ゲームだと咄嗟に前に出たアリス様が子供を庇って、馬は暴走を止めようとしたクラウス様がなんとかして上手く収まる。そうなる前にちょっと怖いかもしれないけれどフィリア様にはアリス様より先に子供を庇ってもらわなければならない。
太陽も傾きかけて来た、そろそろか、そう思って居れば何処からか悲鳴が上がる。
イベントか、馬と子供は何処かと辺りを見回すと100メートル程先の道からかなりの勢いで馬が走って来る。このままだとあっという間にこちらへ突っ込みそうだ。
って、え、子供は?あれ?ゲームだと子供へ突っ込むのに、馬が向かって来るのは一目散に私とフィリア様の元。
周囲の人々は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出すし、私も逃げようとするがフィリア様が動かない。
「フィリア様、逃げないと」
焦りながらそう言うがフィリア様はふるふると首を振る。
「あ、足がすくんでしまって」
わーお、流石生粋のお嬢様。いざというときの危機回避能力が低い。
頑張って彼女を引っ張ろうとするが、悲しいかな同じく令嬢育ちの私の力ではどうにもならなくて、そうこうしているうちに馬は目の前まで迫っていて、私は縮こまるフィリア様を抱き締めた。
神様、仏様!人生攻略本使おうとした私が間違ってました!だからせめてフィリア様だけでも救って!
ゲームだと違ったのにとか、可愛いにゃんズともっとふれあいたかたとか、どこかで物語が違って来ているとか思う事は色々あるのだけど、流石の私も命大事な状況では考えられる事などまともに出来なくて、固く目を閉じてその時を待った。
待った、待った、けれど、痛みも、衝撃もなんにも来なくて、もしや自分はそれすらも感じる事なく即死したのだろうか?とか思いはじめてきた頃、少し慌てたような声が耳に入って来る。
「セリカ様、フィリア様、大丈夫ですか?セリカ様!」
慌てた男性の声と、軽く揺さぶられて、もしかして助かったのか?という思いと、色々な感情がごちゃごちゃになりながら目を開けばそこには見覚えのある顔。
「ぇ、と、、、、助かった、のですか?」
心配そうに私達を覗き込むその人、クラウス様付きの王宮騎士ルイス様。
いつも感情無さげな金色の瞳が、いつになく動揺しながらこちらを覗いていて、助かったことへの安堵からか私の身体から一気に気が抜けて、私は足元から崩れそうになるのを別の手が支えた。
「何故市民が暮らすこの場に、君たちみたいな子が供も連れずにいるんだ?」
「....クラウス様、」
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