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06 冒険者の噂と城下町の視察

「僕は、ルイス兄様を信じますよ」

「ミリオン…! いや、それはそれでどうかと思うが」

「面白いじゃないですか、ドラゴンをあっさり倒す美少女冒険者なんて」

「何が起こったかまるでわからないままだったがな…」


 いやいや、重要なのは『美少女』冒険者ってことですよ!


 前世を思い出してステータス画面で16歳・女に改変して生まれたのが『アオイ』だけど、別に前世と同じ容姿にまで改変したわけではない。現在12歳の僕、ミリオンの性別を単純に変更し、かつ、4年成長させただけである。だから、『アオイ』には『ミリオン』の面影が残っている。


 そんな感じなので、『アオイ』の容姿はどちらかというとボーイッシュに仕上がっていて、前世の『私』はもちろん、母上やレイナ姉様にもあまり似ていない。それでも『美少女』と噂されるのだから、『私』としてはとても満足なのである。


「そうなると、一度会ってみたいですね、そのアオイという冒険者に」

「えっ…」

「リオナも一緒にどうかな? 将来、辺境を収める時の役に立つと思うんだ」

「えっ」

「ミリオン…あまりリオナ嬢をからかわない方が良いぞ?」

「いやまさか、そんなつもりはないですよ、父上」


 今は、ひさしぶりに皇族全員が揃った夕食時。たまたま皇城に訪れていた婚約者のリオナも同席している。


「しかしそうか…。うむ、次の『視察』はミリオンとリオナを連れていくか!」

「そっ…! 父上、それは…」

「んー? オリオン、寂しいのか?」

「いえ、純粋に私もついていきたいだけでして」

「兄さん、皇太子が街をふらふら出歩くのはいかがなものかと」

「卒業したはずの学院に第一皇女がふらふら出歩くよりはマシだ」

「まあ、オリオン。レイナは後進の有望株を見定めて手厚い保護をしているだけなのですよ。私と共に!」

「その有望株が男限定でなければ何も言うことはないのですけどね、母上」


 カオス。ほらー、リオナが泡吹いちゃってるよ。あっ、言い出しっぺのルイス兄様が、お土産のはずのドラゴン肉を頬張ってる!


「ミリオン様、トマトジュースはいかがですか? こちらもルイス様のお土産から作りました」

「ユーリはマイペースだね…。いや、いただくよ」


 うん、やっぱりうまい。でも、この鮮度は今日限りだよねえ。ああ、なつかしの冷蔵庫…。


 冒険者稼業はなんとか軌道に乗ったし(受付嬢のノーラさんが浮かれる程度には)、『ミリオン』としても活躍しないとね。前世ラノベ知識が火を吹くよ!



「え、『魔石』はないけど『魔力保管』はできるかもしれない?」

「はい。アオイちゃん…『流星のアオイ』の活躍次第ですけど」

「え? え? どういうこと?」


 父上の宣言通り、シオニス皇帝・ミリオン皇子・リオナ嬢というラインナップで、城下町のお忍び散策を開始した。その最初の目的地である冒険者ギルドで、『僕』は依頼者としてノーラさんと対峙していた。


 曰く『魔力を蓄積する鉱石の類はないのか、あれば探し出してきてほしい』と。


 前世ラノベ知識(再)によれば、魔力そのものが結晶化したものというのが定番だ。動物の中で結晶化して魔物化するとか、ダイヤモンドのように高圧高熱の場所で発生するとか、チート主人公が無理矢理作り出すとかいろいろだけど、とにかく、魔力というエネルギーが物質化したもの、というのが多い。だから、魔物に関わりやすい冒険者のギルドに何か情報がないかと思ったのだけれども…。


「彼女が冒険者登録をした直後に納入した希少薬草に、短時間で魔力をふんだんに蓄えるものがありまして」

「そっちかー!」

「そっち…?」


 なんのことはない、電気を充電するバッテリーを思い浮かべればよかったのだ。ラノベ知識の敗北、科学技術(初歩)の勝利。


「わ、わかりました。では、そのアオイという冒険者に、そうですね、成人男性一人分の魔力が保管できるだけのものを」

「それでしたら、既に彼女が納入した分の半分程度で賄えますね」

「うそっ!?」

「本当です。もちろん、希少薬草ですのでお値段が高くなりますが、陛…大旦那様ならば十分お支払いできるかと思います」

「うむ、任せるが良い!」


 バレバレですね。


 しかし、結果的に自己解決できてしまいそうだな、この案件。

 該当する薬草を尋ねてみたら、なるほど、魔力欠乏を補うために煎じて飲むために使うものだった。通称『マナ草』。まんまだよおい。だから、その煎じた飲み物ってマナポーションなんじゃない?って思ったんだけど、服用しても魔力がわずかに回復するだけで、本格的な魔法を使うための供給源とはなり得ないらしい。つまり、『私』もなった魔力切れに伴う失神からの早期回復のためということで。


「…はい、確かに必要な分の薬草を受け取りました。ですが、これ…」

「ええ。膨大な魔力は感じるのですが、どうしてもそこから効率良く取り出せないのですよ。服用するために煎じてしまうと多くの魔力が霧散しますし、もちろん、ただ触れただけでは魔力は移動しませんし」

「希少薬草なので活用が進んでいないだけかと思っていましたが、そういうわけではなさそうですね」


 ふうむ…。

 ラノベの魔石にしても電気のバッテリーにしても、その力を移動させる仕組みがあるよね。魔力を伝える蜘蛛の糸とか、電気を伝える電線とか。


「他の素材についても調べてみる必要がありそうですね。今回はひとまず、これで」

「ありがとうございました。せっかくですので、併設の食堂で食事はいかがですか?」

「それじゃあ、お昼を頂こうかな。父上、リオナ、いいよね?」

「うむ」

「ええ」

「じゃあ、僕はトマトジュースだけ」

「「「えっ」」」

「いや、だって、またドラゴン肉なんでしょ?」

「今が旬なんですが…」


 『私』が倒しましたからね。


「…ドラゴン?」

「殿…ミリオン様、いかがいたしましたか?」

「ドラゴンの鱗はどうしました?」

「それはもう、様々な武具に使えると、鍛冶ギルドが嬉々として…あ」

「『魔力伝導率』が高いから、ですよね」

「そうでした…」


 よし、お昼を食べたら、次は鍛冶ギルドだ!



「ドワーフはいないのか…。まあ、エルフもいないみたいだし」

「坊っちゃん、何の話だ?」


 ユーリのハーフエルフ説を強く信じたい。


 そんなこんなで、鍛冶ギルドに突撃。冒険者ギルドのすぐ近くだった。というか、更に隣には商業ギルドもある。素材とか依頼とかの受け渡しをしやすくするためらしい。ギルド同士、仲がいいんだなあ。

 なお、受付嬢ではなく受付マンだった。ひげ…はないけど、いかつい感じのおじさまである。


「で? クズ鉄ならぬ『クズ鱗』が欲しいってことか?」

「ええ。こちらのギルドを経由して集めることはできますか?」

「できるけどよ、手間がかかるぜ。なにしろ、あらゆる鍛冶職人に少しずつ売りさばいたからな」

「そんなに?」

「でかいドラゴンが一頭分だからな。かけらのひとつも手に入れば、金属製の武具を強化できるし」


 金属製!? よしよし。


「じゃあ、鱗については少量でいいので、こちらである物を作ってもらえませんか?」

「ある物?」

「まあ、『金属の糸』ですね」


 電気の電線同様、必要な箇所に集中して巻いて魔力を巡らせることができれば、効果はバツグン! の、はず。普段使っている4属性の魔法は比較的単純だから、魔法そのものを埋め込む『クズ鱗』は少量で良いはずだ。粉末でもいいかもしれない。


「あとは、それらと『マナ草』を組み合わせて、こういうものを試作してもらいたいんです」

「ほうほう…」


 うまく部品化すれば、冷蔵庫だけでなく、ライターや扇風機なども量産化できるはずだ。土魔法と組み合わせてエスカレーターとかも作れるかもだけど、ちょっと大掛かりだ。順番に進めていこう。


「でも、とりあえずは冷蔵庫だよな。新鮮なトマトジュースをこの手に!」

「息子よ、偏屈な独裁者に見えるぞ」

「よくわかりませんが、俗物的な印象も受けますわね」


 父上と婚約者にディスられた…。

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