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04 家庭教師と交流パーティ

「えっ、ミリオン様、もうここまでお読みになったのですか!?」

「え、そうだけど…」

「素晴らしいです! これなら、明日からでも攻撃魔法の訓練が可能ですね」


 そろそろ病人扱いは卒業だねということで、一週間ぶりに家庭教師…家庭?皇城?とにかく、個人指導の教師であるイオニス師による勉強を再開した。


 そしたら、読書のスピードが上がっていた…らしい。ステータス改変スキルの活用のために読みまくったというのもあるけど、前世の記憶が戻ったことで読書ペースが上がった模様。いやだって、どの本も重厚な割に、内容がラノベ未満というか…。所詮は、芸術品相当の書物ってことなのだろうかとか。


「攻撃魔法? それは、来年入学する『学院』で学ぶのでは?」

「皇族の皆様は諸国を巡る旅も多いですから、自衛手段としての魔法の使い方も早いうちに学ぶ必要があります」

「それで、攻撃魔法、か…」

「剣をとるより効果的かと」

「イオニスらしい言葉だね」

「おそれいります」


 ちなみに、イオニス師は長年宮廷魔導師を努めているロマンスグレーのおじさまで、最近生まれたお孫さんにメロメロである(ここ重要)。一応貴族であるが、帝国を構成する国にある男爵領の三男…ということもあって、あまり貴族的な雰囲気がない。昔はともかく今は魔法で戦うこともなく、文字通り教師か学者といったところである。少なくとも、好戦的ではない。


「ちなみに、どんな攻撃魔法がいいのかな?」

「さしあたり、氷魔法の『アイススピア(氷の槍)』がよろしいかと」

「ああ、空気中の水分でいつでも使えるからね」

「…今、なんと?」

「おっと…ああいや、風魔法よりは威力が出やすいんだよね」

「さようです。数多く発動できるのも魅力的かと」

「MP消…気分がすぐに悪くなるわけでもないしね」


 時々やらかしそうな会話をイオニス師としながら、さて、この辺(・・・)はどうしたものかと考える。


 この世界、魔法が使えるのはいいんだけど、魔法だけに、かなり大雑把な捉え方しかしていない。もともと『神より授かった権利と義務』という教えのせいか、科学的な分析をしないし、しようともしないというか。それほど大げさな話ではなく、要するに、魔法は感覚的に覚えるという感じなのだ。呼吸の仕方とか全く知らずに、泳いでいる人の様子を見てとりあえず水に飛び込んで泳ぎ方を覚えようとするようなものなのだ。


 じゃあ、これまで皇城で読んできた魔法の本というのは? うん、教科書じゃないんだよね、これ。どちらかというと、『歴代の魔法使いの物語』である。魔法の名前とか効果は登場しているから、存在自体を知るにはいいんだけど、まるで異世界モノのラノベを史実として読み込むという感じで。


「だから、実はとんでもなく強力な魔法も『知っている』けど、魔力消費量もとんでもないんだよな…」

「…ミリオン様、先にお倒れになってから、独り言が増えましたな」

「そう?」


 もう、すっとぼけるしかないよね。



 ふっ…


 ひゅんっ、ひゅんっ


 ズサ! ズサッ!


「お見事です。これだけの威力なら、ウルフの2~3匹は瞬殺ですな」

「いや、ちゃんと当たるかわからないよ? 相手は動いているんだし」

「一度に『十本』のアイススピアを生み出せれば、問題ないでしょう」


 要するに、僕は普通よりも多くの『氷の槍』を生み出せている。


 が、実はここにはトリックがある。


「さて、お昼にしようか。イオニスも一緒にどう? ユーリの作るトマトジュースはおいしいよ」

「ご相伴にあずかります。しかし、全く疲れをお見せになりませんな。ミリオン様は、魔力の量、というものが桁違いなのでしょうか」

「どうかな? 見えるわけじゃないしね」


 ステータス画面を出せば、見える。見えるということは、『改変』できる。そう、MP容量を。MP容量を改変するなどということは普通ではあり得ず、したがって、チート判定でMP1で改変できる。


 なら、『とんでもなく強力な魔法』もそうやって使えばいいのでは? そうはいかない。MP1で変更できるのは『MP容量』のみなのである。決して、実際のMP値ではない。なぜか? 実際のMPは、この世界の他の人々にもある。だから、MP容量をいくら大きくできても、MP値そのものを大きくしようとすると膨大なMPを消費しようとして結局不可、ということで。


「でも、魔力をたくさん抱えることができても、そもそもの魔力がたくさん降ってくるわけじゃないと思うんだよね」

「…確かに。魔法は『神の下に平等』ですからな」

「まあ、そうだね」


 一晩眠って回復する魔力量が決まっているから、という言い方もできる。実際、『MP15/15』を『MP15/100』に変更して一晩眠ったら『MP30/100』になった。倍になった分、アイススピアを増やすことができたわけだけど、逆にいえば、それだけだ。


 回復する魔力量については,おそらく『レベル』の概念があるのではと考えているのだが、ステータス画面にはまだ追加していない。なぜなら、追加してレベルを知ったところで、レベル値の改変に膨大なMPを消費するのは目に見えているからだ。


 『魔法を使い続ければ少しずつ強力になる』という経験則はあるので、僕の場合はレベルがいつまでも上がらない可能性さえある。なぜかって? ステータス改変によるチートスキルばかり使いまくっていくに違いないからね!



 その日の夜は、皇城で家臣との交流パーティが開かれた。数週間に一度の定例のもので、文字通り、皇族と家臣の絆を家族と共に強めるのが趣旨である。


「みりおんさま、ごきげんよう」

「はい、ごきげんよう、ルネ嬢」

「おお、ルネ、よく言えたな、よしよし」


 イオニス師も、お孫さんのルネと参加している。ここのところのパーティでは、こんな様子のイオニス師しか見た記憶がない。不敬ではないかとおろおろしているルネの両親についても同様に。いつものことなので気にしないよー。


 僕をほったらかしてルネにデレデレのイオニス師を生暖かい目で眺めていると、ひとりの女性が近づいてくる。


「やあ、リオナ、ひさしぶりだね」

「ミリオン様、お体はもう大丈夫なのですか?」

「ああ、もうすっかり良くなったよ」

「まあ、それは良かった」


 リオナ・ミーア・ド・エリアンテ。帝国を構成する国のひとつ、東方に位置するラフネシア辺境伯領の領主の娘で、現在14歳。


 そして、僕の


「ごめんね、目を覚ました後も会えないままで」

「静養中でしたのでしかたがありませんわ」

「でも、婚約者(・・・)の君まで締め出すようなことはしたくなかったよ」

「締め出すだなんて…本当に、お気になさらないで」


 …である。


 この国での成人=結婚可能年齢が男女共に16歳なので、あと4年経てば結婚することになっている。ただし、リオナが皇族になるということではなく、僕がラフネシア辺境伯領に婿入りする予定である。もっとも、その時には僕が領主となって、『ラフネシア公国領』という、より強力な領邦となることが決まっている。


 こと社会的立場に至っては、前世とか関係なくチート級に恵まれているわけで、むしろ、前世を思い出した『私』としては、少々(・・)複雑な心境である。もっとも、それは大して負担にはならないだろう。なにしろ、記憶を取り戻す前の12年間は、普通に男の子…第三皇子をやってきたのだから。


 むしろ、


「だってさ…。こんなに綺麗なリオナに会えないのは、やっぱり寂しかったよ」

「ふえっ!? な、なに、を、突然、そんな…!」

「この髪だって、時間をかけて念入りに整えたんだろう? それも、メイドの手を使わず、自らの手で」

「な、なぜ、そのことを…!」


 なーんてことも、お手の物。

 前世の記憶で女性心理はばっちりなことに加え、逆ハー物も制覇していた『私』に、口説き文句の引き出しはありまくりだからね! あ、あと、リオナの髪に生活魔法の残照があったのも、手入れに気づいた理由なんだけど。とにかく、逆ハー展開消滅の不満はリオナで晴らす。決定。


「そりゃあ、君のことはよく見てきたからね。この肌も…」

「…っ! み、ミリオン様、きょ、今日は、両親にも御挨拶を、お願いします! よ、呼んできますわね、それでは!」


 ぴゅーん


 うふふふ、かわいいなあ、リオナ。

 うん、確信した。あの娘、ショタ属性あるよね。エリアンテ家は兄姉しかいないから、その反動かな?


 でまあ、『私』としては、綺麗で可愛い、素直な妹って感じで。前世ではひとりっ子だったから、ちょっと憧れもあるかもしれない。はー、『アオイ』になって、髪をとかしてあげたい…。


「ふむ、その年でずいぶんと口が上手くなったものだな」

「あ、ルイス兄様。御活躍伺っております。遠征はいかがでしたか?」

「いつも通り、可もなく不可もなく、だ。皇都民の食料は確保できた」

「騎士団長としての人気がまた上がりますね!」

「相変わらず、褒め方が雑だ」

「男性にはこれくらいがちょうど良いと、父上から学びました」

「変なところを学んでどうする」


 ルイス・ビート・ド・ハイドス。帝国の第二皇子で今年18歳、第一騎士団の団長を担っている。剣と魔法に優れ、あらゆる魔物を屠るその実力は、決して親の七光りではないぞという、硬派な雰囲気を醸し出している。醸し出し過ぎて、美形なのに女性に縁がないのが悩ましい。いや、高嶺の花として庶民の女性にはモテモテなんだけれども。


 ちなみに、この世界の『魔物』は、単に魔力をもっている動物という意味合いしかない。ただ、野生の動物がたいがい魔物化しており,家畜化するより繁殖力が高く、身体能力も強化されている。放置すれば人類にとって驚異だが、狩ることができれば豊富な食料源。実のところ、これがこの国、この世界であまり文化・文明が発達しない原因のひとつなのだが、その功罪の考察はまた後で。


「そういえば、その父上は? 母上とレイナ姉様、オリオン兄様も見かけませんが」

「ああ、あそこで西方辺境伯のメルキア家の者達と歓談している。あちらもひさしぶりのようだからな」


 レイナ姉様とは、わが帝国の第一皇女。御年…まあそれはともかく、今でも母上である皇太后陛下と大変仲がよろしく、こちらも異性に縁がげふんげふん。前世の記憶が戻った今、なんとなーく『腐』の匂いがするんだよね、母上と姉様。機会があったらつついてみよう。ショタっ子として。


 オリオン兄様は第一皇子、つまりは皇太子である。だが、父上であるシオニス皇帝陛下と大変仲がよろしく、視察と称しては密かに城下町散策に狩りに…という、実は二代揃って暴れん坊なんとかである。冒険者デビューをした『私』からは何も言えず。あ、もしかすると、『アオイ』の時にばったり会うこともあるかな? 今から楽しみかもしれない。


「まあ、当面はルイス兄様との邂逅(かいこう)だよねー。森にも興味あるし」

「ん? 森に行きたいのか?」

「行きたいと言えば、そうですね。最近ようやく、攻撃魔法を覚えましたし」

「そうか! なら、剣は俺が」

「それはしばらく遠慮いたします。学院で学びますし」

「そ、そうか…」

「ルイス兄様、脳筋も度が過ぎるとモテませんよ?」

「『ノウキン』とはなんだ?」


 しまった、今世で当てはまる言葉がなかった…。

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