エピローグ:異世界転生とゲームシステム
そうして、ミリオン皇子と冒険者アオイの二重活動は相乗効果をもたらし、前世の記憶を取り戻して数か月経った頃には、スキル無双も内政チートもかなり軌道に乗るようになった。今や皇城では、ミリオンは『賢者』、アオイは『魔女』と囁かれるようになっている。
いや、賢者はともかく魔女はないんじゃないかな。だからといって『聖女』は変だけど。何かって言うと大型魔物をマグマに放り込む聖女など聞いたことがないし。前世のどんな異世界モノでもね!
「じゃあ、ユーリ。僕はしばらくアオイと部屋で話をするから」
「かしこまりました」
ユーリがお茶菓子と飲み物をテーブルに置き、お辞儀をしてから部屋を出ていく。
バタン
「はー、疲れたー。やっぱり一人二役は面倒だよー。『幻影解除』」
ふっ
私の近くにいたミリオン皇子の姿が、すっと消える。
「ユーリはしばらく部屋に来ないし…このまましばらく寝てよっと」
おやすみなさい…。
………
……
…
◇
「…あれ、ここって…?」
そこは、真っ白な空間。
自分以外は何もない、しかし、妙にリアリティのある、この感じは…。
「…ありがとうございました、『瀬川葵』様」
「ふえっ!?」
目の前にはいつの間にか、神々しい姿の何かが立っていた。
「えっと…もしかして、神様?」
「はい。この世界『レゾンデートル』を管理しています」
「え、それって世界の名前だったの?」
生きる理由、存在価値。
それが世界の名前となってるってのは、なんというか。
いや、それよりも。
「なぜ、あなたからお礼を?」
「この世界は、本来はどこにでもある普通の世界でした」
「はあ」
「ですが、あなた方の前世の世界にあった、とあるゲームシステムと偶然『因果関係』がリンクしてしまい、制御できなくなってしまいました」
「はあ。って、なぜ?」
「共通部分があまりに多かったのです。時間を経るごとに、人的構成や固有名詞まで似るようになって…」
うーん、『ゲームの世界に転生』って、たいがいこのパターンなのかな? よく考えてみたら、ゲームそのものの中に生まれ変わるってあまりピンとこないし。『本の世界に転生』も同じくって感じで。
「このままでは、そのゲームのシナリオに翻弄されて世界が破綻するところだったのですが、あなたが転生して、システムにない機能や行動を行使し続けたおかげで、ようやくリンクが切れました」
「神様にはどうしようもなかったの?」
「その世界のゲームシステムには詳しくなかったので…」
そんなものなの? そんなものかと考えておこう。
「それで? 私は…いや、『僕』かな、このままこの世界で暮らしていいの?」
「ええ、構いません。私には、あなた方を元の世界に送り返すこともできませんし」
「記憶やチートスキルもこのままで?」
「はい。それらがあったからこそのリンク解消でしたから」
まあ、そっか。
「といいますか…ですね。あなた方の前世の世界からは、割と多くの人々の魂がこの世界にやってきているんです。ゲームとのリンクのせいで」
「そういえば、ミーナもそんなこと言ってたな…。あれ、でも私、そのゲーム知らなかったよ?」
「ええ。あなたはゲームとのリンクに関係なく、この世界に転生してきました。ですが、それでもリンクの影響はありました」
「と、いうと?」
「あなたの本来の転生先は、『リオナ・ミーア・ド・エリアンテ』だったんです」
…はい?
「えっ…それじゃあ、今のリオナは?」
「純粋に、この世界で生まれた魂ですね」
そして、『ミリオン・ラーク・ド・ハイドス』に新しい魂が発生する前に、私が入り込んだってわけか。12歳まで前世の記憶を思い出さなかったのも、それが影響しているのだろうか。性別が違うってのは大きいしねえ。
「あなたには、世界の理にはないものをあなた自身に生み出す力があります。転生先が異なってしまったことによる副作用ですね」
「それじゃあ、あまり無双しない方がいい?」
「いえ、好きにしていただいて結構です。再びリンクすることがないようにするためでもありますが、そもそも、あなたに世界を壊す意思は全く感じませんから」
「まあ、そうだけど」
とりあえず、ステータス改変と二重生活がバレさえしなければ、私…僕自身もさほど問題はないだろう。
「リンクが解消されたおかげで、こうして夢の中に現れることができるようになりましたので、何かありましたら御相談を」
「いたれりつくせりだね。じゃあ、これからよろしく」
「はい。あなたにとって価値のある人生とならんことを」
おおう、ここに来て、世界の名称に触れるとは―――
◇
「んっ…」
…ぽこぽこぽこ
「…あれ、まだお湯すら湧いてないや。一炊の夢、か…」
もしかすると、神様に会ったのは本当に夢で、まだ『ゲームの中』なのかもしれない。でもまあ、そうだとしても…。
「そうだとしても、さっさと話を切り上げたことにしないと! あんまり長く部屋に『二人切り』だと、リオナの嫉妬が悪化しちゃう!」
転生者ではない、純粋にこの世界で生まれたリオナ。大切に『育てたい』ところだ。前世の記憶もフル活用してね!
コンコン
「ミリオン様、リオナ様がいらっしゃいましたが…」
あう、遅かったか…?
よし、ユーリも交えてお茶会だ!
とりあえず第一章完、です。続きのプロットはまだ思いついていないし、キリもいいので完結設定にします。まあ、各種設定を延々と使ったサ○エさん時空にできなくもないですが…。