プロローグ:賢者と魔女
どこかで聞いたことがあるタイトルだなあと思ったあなた。はい、あれ(の異世界版)です。完全不定期連載です。
私の名前はアオイ。数か月前までは、冒険者になりたての、どこにでもいそうな16歳の田舎娘、という風体だった。
「今回の成果も素晴らしかったよ、『流星のアオイ』」
「ありがたき幸せ。で、ですが殿下、その二つ名は恥ずかしいので…」
「あはは、そうだったね。でも、ワイバーンの群れを炎の槍で瞬殺した君にふさわしいのでは?」
「お戯れを…」
それが今は、この国、神聖レグリシア帝国の皇城の謁見の間にて、皇子のミリオン殿下より、ねぎらいの言葉を受けている。
「さて、今日も慰労会には出席しないのかい?」
「は、はい。堅苦しいのはどうにも…」
「わかった。じゃあ、この後、僕の部屋でお茶でも飲もうか」
「ありがとうございます」
ミリオン殿下―――ミリオン・ラーク・ド・ハイドス。神聖レグリシア帝国の第三皇子。
弱冠12歳ながら、国政の多くで数々の功績をおさめた天才。近隣諸国との和平や農地改革など、その影響は計り知れない。ただし、この皇子が表舞台に出たのは、やはり数か月前からなのであるが。
「賢者の皇子に、魔女の冒険者。稀代の英雄が同時代に相まみえるとはな」
「ああ。数か月前まではそんなこと信じられなかったな」
「しかも、年齢も近い男女…。皇子が公国領を興し、魔女を妻に迎えることもありうると聞くぞ」
皇子の部屋に向かう途中で、皇城内の家臣たちのささやき声が聞こえてくる。『聴覚強化』は今日も絶好調だ。
けれども、その噂の通りには絶対にならない。なぜなら…。
「じゃあ、ユーリ。僕はしばらくアオイと部屋で話をするから」
「かしこまりました」
ミリオン皇子お付きのメイドであるユーリが、お茶菓子と飲み物をテーブルに置き、お辞儀をしてから部屋を出ていく。
バタン
「はー、疲れたー。やっぱり一人二役は面倒だよー。『幻影解除』」
ふっ
私の近くにいたミリオン皇子の姿が、すっと消える。
「ユーリはしばらく部屋に来ないし…このまましばらく寝てよっと」
ぽすん、と部屋のベッドで横たわる、私、冒険者のアオイ。
―――まあ、本当の『僕』は、第三皇子のミリオンなのだけれど。