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3話 私の大切な新しい命……

では、最終話。お読み下さい。

 中学生の頃、私は子供を()ろしました。

 そして、それが原因で子供が産めない体になりました……。


 それは大恋愛でした。相手は同級生。私は彼の事を愛していて、彼も私の事を……。

 そういう行為に及ぶのは当然の事でした……。

 私のお腹に新しい命が宿り、私達はその命を2人で大切に育てる事を誓いました……。


 しかし、周りの大人たちは違いました。私達を引き離し、私の大切な新しい命を……。

 私は、心にも体にも深い傷を負いました……。


 あれから年月が経ち、私は看護師になりました。産婦人科を選んだのは復讐でした……。

 私から大切なものを奪ったあの病院を……


 あの先生を破滅させてやりたかった……。


 私がその病院で働き始めてしばらくした頃、私は病院で起こっている不可思議な現象を知りました……。生まれたばかりの赤ちゃんが喋ったというのです。


「産んで欲しくなかった……。」


 と。

 他の看護師さん達は気味が悪いと話していましたが、私は違いました。

 生まれたばかりの赤ちゃんが話し始めたのを見計らって、私はお母さんの耳元へ赤ちゃんを連れて行くのです。すると、彼女達は決まってこの世の終わりのような顔をする……。

 私はそれを見て狂喜するのです。

 ざまあ見ろ!産めるからなんだってんだ!!

 って……。


 ある夜。帰りの遅くなった私は、真っ暗な夜道を歩いていました。時刻はもう日をまたいでいました……。

 ふと闇の向こうを見ると、見覚えのある後ろ姿。私は一目でそれが先生であるとわかりました。

 私は思いました。

 このまま先生を()けて行けば、何かネタを掴めるかもしれない。もし掴めたなら、それをマスコミに流し、やって来たカメラに向かって……


 私はこう言ってやるんだ……!!


「こういう事をする人だとは前々から思っていたんです。あの先生は最低な人間でしたから……。」


 って。


 クフ……クフフ…………。


 笑いが込み上げてくる……。


 ハッ!


 ……ついつい妄想に入り込んでしまっていた。

 私が前方を見ると先生の姿はない。


「横道に逸れたかな……?」


 私は、先生の居た辺りを探す。すると、小さなけもの道を見つける。


「こっちね……。」


 私はけもの道に入っていく……。

 しばらく進むと、前方に洞穴(ほらあな)のようなものが見え、そこに先生らしき人物がたたずんでいる姿が見える……。


「何をしてるんでしょう?ここからじゃ見えないわね。」


 そう言うと、私は急いでそこへ向かう。

 しかし月明かりのみの明るさでけもの道を進むのは容易ではなく、私は木の根のようなものに足を奪われ倒れてしまう。


「あっ!」


 大きな声と音を出してしまった。

 私は慌てて洞穴の方を確認するが、先生の姿は既にそこにはなかった……。


「あーあ。」


 仕方がない。でも、せっかく来たんだし、あの洞穴が何か見に行ってみよう。それに、もしかしたら先生が何をしていたのかもわかるかもしれない。


 私は洞穴の中を覗きこむ。

 入り口正面には道はなく、下に向かって縦に穴が広がっている。吸い込まれるような闇。まるで奈落の底のような……。

 足元にあった小石を投げ入れる。が、底に当たる音はない。


 私はこの洞穴を知っていた……。


「黄泉の国の入り口……。」


 地元の人がそう呼ぶ洞穴だった。実際、私も昼間には何度か来た事があったが、夜はこんなにも不気味だとは知らなかった。本当に黄泉への入り口なんじゃないかという気にさえなる……。

 その時。


「……()けていたのはあなたでしたか?」


 木陰から先生が姿を現わす。


「せ、先生!こ、これは……違うんです……。」


 私は慌てて何が取り繕おうと言葉を探す。


「良いんですよ。私は知っていましたよ。あなたが私を良く思っていないことは……。あの時の事が原因でしょう?ほら、あなたがまだ中学生だった頃の……。」


 先生はそう言って私に微笑んだ。


「知っていたの……?」


 私はそう言うのが精一杯だった。怒りが溢れて止まらない……。

 こいつが私から、私の大切な新しい命を奪った!!

 私は先生に殴りかかる。

 しかし、その手は先生に止められてしまう。私は彼の手を振り払おうともがくがビクともしない。初老の男性にしては強い力だった。


「あなたはあの日、まだ子供だった……。大人たちが無理やりした事だと思っても仕方のない事だ。でもね、私にあなたの手術をして欲しいと頼んできたのは大人ではないんだよ。当時の君の彼氏だ。マズい事になったから何とかして欲しいと……彼は父親と2人で私に頼みにきたよ……。」


「…………え?」


 私は気が動転する。あの日、彼は一緒に育てようって……。


「これは本当の事だ。そして私は断った。しかし、彼の父親は君も知っての通り、村の有力者。手術をしないと営業出来ないようにすると脅された。そして私はそれを受けてしまった……。私に非がないとは言わない。私も同罪だ……。」


「…………。」


 私は、もうどうでも良くなっていた……。開放されている耳に、先生の声が勝手に入ってくる。


「あの日から、私は何度も彼のために手術をした……。毎回違う少女だった……。それが原因で私の所に来た…………いや、自殺した少女もいたよ。彼こそが悪魔だと私は思った……。

 …………そして、彼にも天罰が下った。」


「天罰?」


 私はその言葉が気になった。


「彼はある日、行方不明になったよ。それは、私のように手を(よご)された者が下したのか?(けが)された少女が下したのか?それとも…………あなたが下したのか?」


 私の口が勝手に話しだす……。


「……私はあの後、何度も彼の家に行ったわ。でも、一度も彼には会えなかった…………。何年か経ち、あれは私が看護の学校に通っていた頃だったわ。偶然彼に会ったの。彼は私の事を知らないフリをした……。私は、あの日の事をバラされたくなかったら黄泉の国の入り口まで来て……。と彼に告げた。彼は同意した。

 多分、都合が悪くなれば、私をここに突き落とせば良いと思ったんでしょうね?

 ……結果、彼はここへ来て私と会い、彼が落ちるハメになった……。」


 本当にあった事なんだろうか?

 私は私が話している間、そんな風に考えていた。


「……それは良い事をしたね。しかし、それだけじゃあ足りないな……。」


 先生は、優しい声とは裏腹に何故か私を睨んでいる。そして再び口を開く。次は声に怒気を乗せて……。


「あなたは罪を犯したんだ!生まれる前の無垢な魂を殺した!!私はあの日、君に聞いたよね?1人で育てるという道はないのかい?と。苦難ではある。自分を犠牲にしても報われない可能性の方が高い。それでも、今ならその道を選ぶ事は出来ると。しかし、あなたはそれを選ばなかった……。自らの意思で殺したんだよ……。あなたの言う、私の大切な新しい命を……。」


 何かが私の両肩を押した……。私は洞穴へ吸い込まれるように落ちた……。


「君は生贄だ……。これで黄泉の国の神様が怒りを鎮めてくれれば良いのだがね……。また私の病院で生まれる赤ちゃんに無垢な魂が宿りますように……。」


 先生は祈った……。



 私は暗闇の中を落ちる……。もう何時間落ちただろうか?

 何日?

 何年?

 既に上下左右の感覚はない。自分が落ちているのか昇っているのか?

 はたまたそこに留まっているのか?

 それすらもわからない……。


「…………?」


 急に暖かい液体に包まれているような感覚を覚える。


「これは何だろう……?なにか懐かしいような……?」


 私は考える……。

 この感覚、遠い昔に感じたような…………?


「そうだ。お母さんのお腹の中だ……。」


 その時、私は胎児になっていた。いや、まだ人の形は成していない。私は、まだ胎児になる前の胎芽(たいが)という状態だった……。

 へその緒から外の声が聞こえてくる……。


「……1人で育てるという道はないのかい?苦難ではある。自分を犠牲にしても報われない可能性の方が高い。それでも、今ならその道を選ぶ事は出来る……。」


 男の人の声だ。あれ?

 このセリフ、聞いた事があるような……?


「……この子はまだ子供なんです!そんな事出来るわけありませんっ!」


 別の人の声。

 ……お母さん?


「私はこの子に聞いているんです!」


 またさっきの男の人。

 そして、次に聞こえたのは……。


「私には出来ません……。」


 え?…………私?


「わかりました……。では分娩室へ移動しましょう……。」


 その言葉を聞いて頭がハッキリしてくる……。

 これはあの日の会話だ……!

 それは、私の大切な新しい命を奪われた日。子供を産めなくなった日……。心と体を傷つけられた日……。


 そしてもう一つ、わかる事がある。


 これから私は殺される!!


「いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!」


 私は全力を振り絞って足掻いた。私の手足とも呼べないものは周りの壁に傷を付けた……。

 引きずり出される恐怖……。

 私は呪った。私を産まない私自身を……。


 …………その時、私は気付いた。


「あ。私だったんだ。私に傷を付けたの……。」


お読み頂きありがとうございました。

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