2話 何人も……何人も…………
私は罪を犯しました……。
私は、産婦人科医です。これまでいくつもの命をこの両手で取り上げて来ました……。
そして、同時にこの両手で……。
ザーー……
雨が降っている。窓越しに外を見ていた私……。
手にはコーヒーカップ。その中にはホットミルクが湯気を立ち昇らせている。
ピカッ……!
稲妻が走る……。大分遅れてゴロゴロと音が続く。
シャッとカーテンを閉じ、振り向く。
振り向いた先にはベッドがあり、その縁にはタオルに包まれた濡れた少女が座っている。年は13、4くらいだろうか。近くの私立中学校の制服を着ていた。
「どうぞ。落ちつきますよ。」
私は少女にホットミルクを渡すと、
「まぁ、今のあなたには落ちつきなんて必要ではないですかね……。」
と言った。
時刻は22時を回っている。部屋の明かりは付いていない。室内の様子は時々稲妻が映し出すのみだった……。
その部屋には、少女が座るベッドが1つ。机が1つ。そして椅子が2つある。他には難しい医学書や医療器具などが整然とならんでいる……。
そこは診察室だった……。
「あの……、噂、聞いたんですけど。」
少女が口を開いた。
「ああ。それで病院の前に立っていたんですね。雨の中、何時間も……。」
私は少し嫌な顔をする。
「……してくれるんですよね?この病院は?私、いじめられてるんです。もう耐えられないんです……。」
やっぱりだ。
私はそう思った。
「ええ。では、早速始めましょうか?」
私はそう言うと少女に近づく。そして、両手を少女の首筋に這わせる。
気道を圧し潰すように少しづつ力を強めていく……。
「うぅ……。やめ……て……。」
少女の声に私は首筋から手を離す。
「生きたいと望むなら、帰りなさい。私は生きたい者は殺さない……。」
少女は逃げるように部屋から出て行った。
……でも、私は知っている。
少女は再びここに来る。死んだ気で頑張れば何でも出来るなんてのは嘘だ。
一度絶望した者は、必ず再び死を望む……。
そして数日後。私は彼女の命を取り上げた。赤子を取り上げたのと同じ両手で……。
少女の死体は病院の近くにある洞穴に捨てた。
その洞穴は縦に伸びていて、かなり深い。小石を投げ入れたとしても、底に当たる音などしない。もちろん死体を投げ入れても……だ。
土地の人はその洞穴を黄泉の国の入り口と呼んでいるらしい。なら、私のしている事は正しいということになるのではないだろうか?
その時の私はそう思っていた……。
私はもう何度も……数えるのが億劫になるほど……その洞穴に少女の死体を投げ入れた。
それは少女達が望んだ事。罪の意識はなかった。
しかし、異変は唐突に起こった……。
私が、私の病院で取り上げた……生まれたばかりの命が喋ったのだ……。
「産んで欲しくなかった……。」
と。
その時、私は自らの過ちに気付いた。
戻って来たのだ。黄泉の国の入り口からこの世界に、絶望した少女達が……。
そして、生まれて来たのだ。
生まれて来る筈だった無垢な魂を押しのけて。
何人も……何人も…………。