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「うん。私たちの荷物に間違いないです」


「そうか。じゃあペンション内の説明をしたいし移動でお疲れのところ悪いけど、また一階に降りてもらえるかな? その代わりと言ってはなんだけど、食堂で温かい飲み物を出すよ」


「分かりました」


 私が元気よく返事をすれば金森さんは思い出したように自身の着ている上着のポケットに手を入れた。


「そうそう、真宮。この部屋のカギを渡しておくよ。紛失しないように気をつけてくれよ」


「分かった」


 兄はオーナーの金森さんから、木製キーホルダーが付けられた鈍色のカギを受け取った。木製キーホルダーには『マエストラーレ』という、このペンションの名前と『201』という部屋番号が記されていた。そして宿泊する部屋201号室を出て兄がカギをかけると私たちは再び、階下に降りた。


「まず、このロビーにある受付でチェックインをする事になってる。真宮、悪いが名前と電話番号、住所を記入してもらえるか?」


「ああ」


 受付台に置かれている万年筆で用紙に記入すると、金森さんは満足そうに笑顔で頷いた。


「うん、ありがとう。チェックアウトの時は一応、スタッフに声をかけて欲しい。実は今、スタッフの数が通常より少なくてね。宿泊の不便はないようにするつもりだけど……」


「スタッフが少ないって何かあったんですか?」


「いや、通いで来てもらってる男性スタッフが急病でね……。まぁ、しばらくは僕も猟に出ずペンションに居るから問題ないと思うけど」


「そうなんですか……。大変ですね」


「まぁ、そういう訳だからこの受付にスタッフがいない時は一階、奥の廊下へ行くとスタッフルームがある。ベルを鳴らしてくれたら、誰か気付いて出てくると思うけど」


「分かりました」


「あと、玄関を入って右手にある扉を開けると食堂だよ。どうぞ」


 ペンションオーナーの金森さんが木製の扉を開ける。室内に通された私と兄は複数の木製テーブルと椅子が設置されている食堂内に案内された。天井からは金色の鎖と金具がついた眩い照明が吊るされて空間を温かく照らしているし、片隅には長い煙突がついたアンティークっぽい黒色のストーブが内部で薪を燃やしながら炎を揺らめかせている。


 窓の外を見れば雪景色が見える。そういえば空港に降り立った時は雪が解けかけていて心配していたが、ペンションの前でバスから降りた時は随分と寒さを感じた。標高の高い山間部と市街地では温度差があるのだと改めて感じる。


「いらっしゃいませ」


「ようこそ」


「紹介するよ。ウェイトレスの横塚千香さんと、料理人の笹野絵里子さんだよ」


「あ、よろしくお願いします」


 食堂のカウンターの向こう、調理場内にシンプルなパステルグリーンのエプロンを身にまとった茶髪ポニーテールの女性。笹野絵里子さんがいてカウンターの手前にウェイトレスの横塚千香さんという、白いフリルが付いたエプロン姿で眼鏡をかけた三つ編みの黒髪女性がいて笑顔で会釈してくれた。


 私は若干、動揺しながら二人の女性に頭を下げた。料理人の笹野絵里子さんと言えば、沖原沙織さんが婚約者である金森さんとの仲を嫉妬して三匹の犬を殺したに違いないという疑いをかけている女性だ。しかし、見た感じスレンダーで爽やかなポニーテール美人の笹野絵里子さんが、三匹もの犬を逆恨みの嫉妬的な動機で殺害したようにはとても見えない。


 横目でチラリと兄を見れば無言で笹野絵里子に冷淡な視線を向けている。そして兄の肩にすがりついているコロちゃんが緊張感のカケラも無い様子で、笹野絵里子を見つめて尻尾を振っていた。私は込み上げる笑いをこらえる為、とっさに自分のクチビルを噛みしめた。

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