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 突然の大きな猛禽に思わず固まってしまったが、大きな鷲は微動だにしない。様子がおかしいと思っていると背後から小突かれた。


「いでっ!」


「加減してるんだから大して痛くないだろう。いつまで剥製(はくせい)と睨み合ってるんだ。さっさと中に入れ」


「剥製!? あ、これ剥製だったんだ! 本物かと思ったわ!」


 樹にとまったポーズで眼光を光らせている大きな鷲は剥製だった。あまりにもよく出来ているので一瞬、生きているのかと思ってしまったが改めて見れば作りものだと分かる。


「その剥製は状態の良い大鷲の遺体を回収して作った物だからね。いや、それにしてもそんなに驚いてもらえるなんて玄関に大鷲の剥製を設置したかいがあるよ」


 突然、話しかけられて視線を向ければダークブラウンのウェーブがかった髪と、日焼けした精悍な顔立ちが印象的な長身のイケメンが目を細めていた。


「あなたは?」


「久しぶりだな金森」


「ああ、久しぶりだな真宮。君は妹のナオミちゃんだね」


「はい。そうです。あ、オーナーさんですか?」


「うん。このペンションのオーナーをやっている金森実紀夫です。はるばる東京から来てくれて嬉しいよ。それにしても真宮に、こんな可愛い妹がいるとは思わなかったな」


 甘いマスクの長身イケメンから間近で微笑みを向けられ、私はほおが熱くなった。


「ナオミ。こいつの『可愛い』は社交辞令だ。色気づくな」


「なっ! 誰が色気づいてるのよ!?」


 思わず反論すれば兄は冷ややかな眼差しで私を一瞥する。


「おまえだ。お世辞を真に受けるな」


「いやいや、可愛いと思ったのは本当だよ。それにしても真宮は相変わらずだなぁ。ひとまず二人が宿泊する部屋に案内しよう。こっちだよ」


 にこやかなイケメンのオーナー。金森さんにうながされ進めば、まずロビーにフロント台が設置されているのが見えた。台の上には小さなベルが置かれているのでチェックインやチェックアウトの時にスタッフがここに居なかった場合、あのベルを鳴らしてスタッフを呼ぶのだろう。


 そしてロビーには玄関同様、またも黄色いクチバシが印象的な猛禽の剥製が置かれている。全体的に褐色の羽毛で覆われているが頭部は白っぽく、何より尾が純白で目をひく。さきほどの大きな鷲とはまた違う種類の鳥だ。台座部分を見ると銀色の金属プレートに尾白鷲(オジロワシ)と表記されていた。


 ふと視線を感じて上を見ると、そこには立派なツノを持った茶色い鹿の頭部剥製が飾られている。こんな大きな鹿の剥製を見たことが無くて驚いているとオーナーの金森さんは鹿の剥製を凝視して足を止めた私に気付いて笑った。


「ああ、驚いたかい?」


「はい。この鹿、すごい大きいですね」


「そいつはエゾ鹿のオスだよ。日本に生息している鹿の中では最も体が大きいんだ」


「はぁ~。そうなんですね」


 なるほど日本で一番大きな鹿ならこれだけ立派なツノを持っているのも頷けると感心した。


「夕食の時には、エゾ鹿肉のジビエ料理も出るから楽しみにしていて」


「ジビエ料理?」


「ハンターが野生の鳥獣を仕留めて作る料理だよ。実は僕が狩っているから、このペンションで提供している肉の質については保障するよ」


「わぁー! 自分で狩ってるなんてすごいんですね!」


「まぁ、その話については後で話そうか。ひとまず部屋に案内するよ」


 苦笑する金森さんがロビー横にある木製の階段を上り、兄がその後についていく。私は飾られているエゾ鹿剥製の迫力に若干、圧倒されながらも二階の部屋に向かった。


 案内された部屋はシングルのベッドが二つ設置されている綺麗にベッドメイクされている清潔そうな寝台は快適に眠れそうだ。部屋は角部屋で窓からは陽光が差し込んでいる。


「お風呂とトイレは右手にあるから。あと、先に送ってもらった荷物はこの部屋に運んでおいたから間違いないか確認してくれるかな?」


 オーナーさんに促されてみれば事前に東京から宅急便で届けてもらっていた旅行用のキャリーケースが部屋の片隅に置かれていた。飛行機を利用する場合、小さな手荷物以外の大きいキャリーケースは飛行機の搭乗時に積み込みの関係で一時的に手放して空港スタッフに預ける訳だが、まれにロストバゲージといって大きな荷物が紛失されることがある。


 日本国内だと、ほとんど無いミスらしいが海外の航空会社だと自分が乗ったのと違う飛行機に荷物を積み込まれたりして結構、頻繁にロストバゲージという荷物紛失の事故が起こるらしく折角の旅行も荷物を紛失してしまえば台無しになってしまう。


 そこで今回は事前に大きな荷物は宅急便で配送しておいたのだ。こうしておけば、現地についたは良いけど荷物が無いという事態にはならないし、自宅から大きな荷物を持って電車に乗ったりしなくて済む。


 兄と共に部屋の片隅にあるキャリーケースを確認するが筆跡、キャリーケースの形状、色、ともに自分たちの物で間違いないと分かった。

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