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 飛行機で空を飛んでいると雲との距離がとても近い。眼下のビル群がまるでミニチュアのように見えて不思議な感じがする。


「そういえば飛行機のパイロットは離陸時が一番、緊張するらしいな」


「離陸時? 飛行機は着陸時が一番、危ないんじゃないの?」


 よくテレビの衝撃映像や飛行機事故のVTRで、機体トラブルが起こって車輪が出ない場合に胴体着陸となった場面が流れるが車輪が無いまま滑走路に着陸する様子。


 特に機体の下部が滑走路のアスファルトと激しく摩擦して、下手をすると滑走路で止まり切れずオーバーランしてしまう様子などが印象的に残っている。


 そんな着陸時よりも楽そうに思える離陸時の方が、パイロットは緊張するとは一体どういう事なのかと首を傾げれば兄は少し口角を上げた。


「飛行機が離陸する時は燃料が充分にある。そういう状態で事故が起これば大爆発となり、乗員と乗客の全員が死亡する可能性が高い」


「言われてみれば確かに……」


「離陸時はパイロットがどんなに気をつけていても、バードストライクみたいな事故が起こるケースもあるからな。燃料が満タン状態でジェットエンジンに鳥が巻き込まれてしまったら大惨事になりかねない」


「そういえば、バードストライクのせいでアメリカの飛行機がハドソン川に不時着したケースがあったわよね。あれは奇跡的に全員無事でケガ人も特に出なかったらしいけど、普通はあんな上手く行かないものね……」


 2009年、アメリカでバードストライクが原因で飛行機の全エンジンがコントロール不能になり、機長の判断でハドソン川に着水し乗員乗客の全員が助かったという件は後に映画化もされた。あれも離陸直後の事故で一歩間違えれば大惨事になってたかも知れなかったのだ。


「一方、離陸時に比べれば着陸時は燃料が残り少ない状態だ。その上、事前に機体トラブルが起こっていると分かれば、飛行機は滑走路の上空を旋回して燃料を使い切ってから着陸する。着陸時に事故が起こって機体が破損したとしても燃料が無い状態なら大爆発が起こる可能性は低く、死者が出る可能性も低いそうだ」


「へぇ~。そうなんだ。じゃあ、着陸時に事故が起こっても安心ね! なんて言う訳ないでしょ!? 飛行機に乗ってる時に航空事故の話なんてしないでよ! 縁起でもない!」


 兄が無駄な知識を披露したせいで、私は着陸時に「もしかしたら事故るかも……」という余計な不安を抱える羽目になった。


 しかし、機体トラブルで車輪が出ずに胴体着陸になるみたいな緊急事態になることも無く、着陸時に多少の衝撃があった程度で、飛行機はスムーズに滑走路へ着陸した。こうして私は二時間弱の飛行機での移動を経て、無事に北海道の地を踏むことが出来た。


「それにしても意外と雪が無いのね」


「時季的にこんなものだろう」


 空港周辺は雪がまばらに残っている物のアスファルトの地面はしっかり見えている。一応、雪も楽しみにしていたのに拍子抜けだ。


「ペンションまではシャトルバスで行けるから、さっさと行くぞ。……こっちは犬っコロが重くて仕方ない」


「うん」


 コロちゃんは相変わらず兄にぴったりと貼りついてる。今は両足を兄の肩にかけて背中におぶられてるようにも見える。周囲の人には残念ながら見えないし、兄は実に不本意だろうけど見た目的には飼い主が愛犬をおんぶしているようにしか見えないので、心温まる光景に見えないこともない。


 そんなこんなでコロちゃんを背中に貼り付けた兄と共にシャトルバスで移動し、ようやく宿泊先のペンションに到着した。バスから降りれば目の前には茶褐色の丸太で造られた素敵なペンションが建っている。入り口部分が数段の木製階段があり、ペンション『マエストラーレ』と書かれた木製の看板も玄関横に見える。二階建てのペンションなのかと思っていると、よくよく見れば地面の雪に半ば埋まる形で窓が見えている。


「ああ、雪国だから一階部分は雪に埋まるのを前提に建てられてるのか……」


「豪雪の地域だと、よくあるタイプの造りだな」


「キューン……」


「コロちゃんが寒がってるわ。早くペンションの中に入りましょう!」


「いや、こいつは寒がらないだろう……」


 兄は呆れ声だが、実際にコロちゃんは可愛い尻尾をたれさせて元気が無い。長旅と言う程ではないが、慣れない移動で疲れているのかも知れない。というか外に居ると厚着をしていても顔が寒いので私が早く温かい室内に入りたいのだ。


 そんな訳で、私はいそいそとペンションの扉を開けた。玄関ドアには来客を知らせるためだろう。金属製のベルが取り付けられていて、私がドアを開けると同時に高い音を鳴らした。


 思っていた通り室内は暖房が効いていて暖かく快適だ。しかし、室内温度の快適さを堪能する前に私は眼前のモノに目がクギ付けになった。驚いたことにペンション内には鮮やかな黄色いクチバシと鋭い足爪、鋭い眼光の大きな (ワシ)がいたのだ。

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