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「エゾ鹿を狩っている金森さんに、他の鳥獣を殺害する意図や悪気があった訳じゃあなかったはずなのに……。何でこんなことに……」


「悪気が無く、むしろ良いことをやってるつもりというのが尚、タチが悪い。無知や無関心はそれだけで罪となることもある。こういう人里を離れた、人間が干渉しない筈の場所では特にそれが如実に現れる」


 兄は冷たい北風に黒髪をなびかせながら遠くの空を見つめ、眉間にシワを寄せている。私の胸の内にある疑問が次第に大きくなり、吐き出さずにはいられなくなってきた。


「ねぇ、なんで猟銃の弾に鉛が使われてるの? 鉛さえ使われていなければ関係ない鳥獣たちが鉛中毒で死なずに済むのに……」


「銅製や鋼鉄製の銃弾とか代替品になる弾はあるんだがな……。銅弾や鋼鉄弾を使わない理由は個々で色々ある。鉛弾の方が殺傷能力が高いとも言われているが、実際のところは使用した際のダメージに然程の変わりはないようだ」


「それじゃあ、鉛以外の弾丸でも良いはずなのに……」


「鉛弾を選ぶ主な理由として狩猟のコストを抑えたいハンターの場合、安価な弾丸を選んで購入してしまうからという理由が考えられる。鉛は紀元前から人類が使ってきた金属だ」


「紀元前!? 鉛って、そんなにも昔から使われてるの?」


 想像以上に鉛の歴史が古くて仰天した。今のような機械などの技術はなく木材や炭などを燃やして金属を加工するしかできなかったと思うけど、それでも古代の人は鉛を加工していたというのか。唖然としていると兄は小さく頷いた。


「ああ。有名な物だと紀元前312年から古代ローマで建造された、ローマ水道にも鉛は使用されている。古代人にも比較的、容易に入手できた上に融点が低く加工しやすい。現在の技術ならもっと簡単に扱えるようになった。つまりそれだけ簡単に加工できて比較的、入手が容易な鉛が原材料の鉛弾は銃弾の中でも最も安価なんだ」


「大きな理由は値段なの?」


「ハンターにとって銃弾は消耗品だ。安い鉛弾なら一発あたり数十円で入手が可能な場合もある。銅弾や鉄弾の場合は数十円というわけにはいかない。一発あたり百円以上が相場だろう。消耗品である銃弾のコストを少しでも安く抑えたいと思ってるハンターは少なくないはずだ」


 目を細めてエゾ鹿の墓に視線を向けた兄の表情からは心情を読み取ることはできない。しかし、たった数十円の金額を惜しんで、本来なら死ななくて良いはずの生物が鉛弾を口にして、鉛中毒で苦しみながら死んでいるのかと思うと私は悔しくて涙が込み上げてきた。


「コストって……。そんな理由で、何の罪も無い鳥獣たちが鉛の毒で死んでるなんて……! 完全に人間のエゴじゃない! 酷いわ!」

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