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気がつけば兄の足元には赤茶色い犬のコロちゃんがいて、兄がタクシーの後部座席に乗り込む際、ちゃっかりと一緒に乗り込む。おまけに座席に飛び乗って、私と兄の真ん中に鎮座した。
「ところで沖原沙織さんにスマホで何を見せたの? あれから明らかに態度が硬化したみたいだけど?」
「ここに来た翌日、役所に連絡を入れてオオワシの死骸を回収してもらった後、やっぱり金森の飼ってた犬の検査が必要不可欠だと思って金森に死骸を掘り起こす許可をもらうため、スタッフルームに行ったんだ。そして、ドアのすき間から中を見ると金森とウェイトレスの横塚千香が『非常に親密な様子』だったんでな。その様子を動画に取っておいた」
「え、それってまさか……」
「まぁ、平たく言うと金森は浮気していたということだ……。二股をかけていたというべきか?」
「マジで!?」
「ああ。ウェイトレスの横塚千香に対しては、婚約者の沖原沙織とは別れる予定で結婚はしないと言いながら付き合い、沖原沙織がこっちに来る時には横塚千香をシフトから外して二人が鉢合わせしないようにしていたようだ」
「うわー。酷い……」
第一印象では爽やかなスポーツマンタイプの長身イケメンだと思ったのに婚約者のいる身で、上司という立場を利用しながら職場の女性従業員に手を出していたなんてクズ過ぎる。
そういえば金森さんはウェイトレスの横塚千香さんを「千香ちゃん」と呼んでいた。最近だと上司が部下の女性を『ちゃん』付けで呼ぶこともセクハラとなる場合もあるとかで上司が部下を『ちゃん』付けで呼ばなくなっているそうだが、金森さんは横塚千香さんを「千香ちゃん」と呼んでいたのは上司と部下より親密な仲だったからなのか。
私の中にあった金森さんの印象は鉛弾の件で地に落ちていたが浮気の上、部下に手を出すゲス男として評価が深海にまで沈んでいった。もはや浮上は不可能だろう。
「金森の奴は大学時代から女関係が派手な奴で一方、沖原沙織は男を見る目が無いというか、男運が無い女でよく妙な男に引っかかっては騙されたりトラブルになっているという話を噂で聞いていた」
「あ、そうなんだ……」
「大学時代の同級生と言っても顔見知り程度だから深い付き合いは無いし、人づてに聞いていただけだったんだがな……。本当にどちらも噂通りで正直、驚いた」
「うん。それは驚くわよね」
「すでに二人は婚約済みで、結婚まで考えているというから少しは落ち着いたのかと思っていたんだが、金森の方は株で失敗した損失を補填する為に、資産家令嬢である沖原沙織に目をつけて婚約までこぎつけていたようだ」
「えっ! そうなの!?」
「ああ。大学時代の共通の友人から話を聞いて分かった」
つまり、金森さんは最初から沖原沙織さんの財産狙いで近づいたということなのか。それだとすると金森さんにとってはウェイトレスの横塚千香さんが本命だったということになるのだろうか。
いや元々、女性関係が派手で婚約者がいながら浮気や二股をかける男性というのは、いわゆる浮気の常習者である可能性の方が高そうだ。
いつぞや、兄に「男を見る目が無い」と言われたが、本当にぐうの音も出ないとはこのことか。走り出したタクシーの車中から外の景色を眺めながら肩を落とし、私はそっとコロちゃんの頭をなでた。




