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「あの、オーナーこれってどういう?」


「千香ちゃん! あ、ちょっと席を外すよ」


 首を傾げて不信そうな目をしているウェイトレスの横塚千香さんをなだめるかのように、金森さんは二人で厨房の奥に引っ込んでしまった。なんだか慌てているように見えた金森さんの様子に沖原沙織さんは唇をとがらせた。


「何なのかしら?」


「ああ。そういえばこの間、動画を録ったんだ。折角だから今の内に見てもらった方がいいな」


「動画……? それって今回の件と関係あるの? 真宮くん」


「いや、犬の件とは関係ないんだが立場的に依頼主に報告しておくべきかと思ってな……。この動画だ」


 取り出したスマホを数回タップした兄は、沖原沙織さんに自分が撮ったという動画を見せ始めた。私と向かい合う位置なので沖原沙織さんが見ている動画は私には見えない。きょとんとしながらスマホ画面を見ていた沖原沙織さんの目が大きく見開かれた後、細くなりその瞳から完全に光が消え去った。


「何の動画なんですか?」


「ふ……。ふふふ」


「沙織さん?」


「そう……。そういうことだったのね……。それで突然、私に来られたくなかったのね」


 完全に目が座った沖原沙織さんの低い笑いで、肩にかかるセミロングの美しい髪が揺れている。突然、剣呑な雰囲気を発し始めた沖原沙織さんに何が起こったのか皆目、見当もつかず戸惑っていると厨房の奥から金森さんがやって来た。


「いや~。悪いね、話の途中で席を立って。でも鉛弾については僕としても悪気はなかったし、今度からは使わないように気をつけるよ。それで良いだろ?」


 全く悪びれる様子もなく薄い笑みを浮かべる金森さんに唖然としていると、沖原沙織さんは突然席から立った。そして次の瞬間、金森さんの頬を思い切り平手打ちした。頬を打ったことによる高い音が食堂内に響き、金森さんの身体がグラリとよろける。


「な、何をするんだ沙織! 犬のことなら謝るよ! でも、たかがペットだろ!? また新しい犬を飼えばいいじゃないか!?」


「たかがペットじゃないわよ! 大事な家族よ! あなたのこと信頼してたから大事な仔たちをたくしたのに、分かってて三匹も見殺しにしたも同然じゃない! 鉛弾を自分で選んで使ってたあなたが、鉛の危険性を分からなかったわけがないでしょう!?」


「そ、そりゃあ鉛を人間が口にしたらヤバイのは知ってたさ。でも、人間の口には入らないよう僕だって最大限、配慮してきたし犬が鉛弾を食べたのは、食い意地のはった犬が勝手に鹿肉を食べたからじゃないか!? 僕のせいじゃない!」


「……分かったわ」


「沙織、分かってくれたのか」


「もう、あなたと話をしても無駄だって分かった。あなたに預けた二匹の北海道犬は返してもらうわ。あなたとの婚約も解消する。結婚の話も当然なしよ!」


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