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「そうだ。ライフル銃で一発、エゾ鹿に当てた程度だと当たった部位によっては、手負いの鹿にそのまま逃げられてしまう。しかし散弾銃なら、ダメージが広範囲でそのまま逃げられる確率は低い。だから当初は僕も散弾銃を使っていたけど笹野さんから万が一、宿泊客が食べる肉に弾丸の欠片が混入したら大変なことになるからと言われて、散弾銃の使用は辞めて最近はライフル銃を使っているんだ」
ふてくされたような顔で金森さんが語るのを聞きながら思い出す。確かその話もここに来た初日の晩、金森さんはしていた。以前は散弾銃を使用していたけど、最近はライフル銃を愛用していると。
私や兄に対してはライフル銃で集中してエゾ鹿を仕留めるのだと言っていたけど、どうやら本当は人が食べる鹿肉に鉛弾の欠片が混入するのを防ぐため、散弾銃からライフル銃に切り替えていたようだ。
「笹野さんはオーナーである金森の飼い犬が死んだとき、猟銃で狩った鹿の体内に弾丸が残っているんじゃないかということと、鹿の死肉を犬が口にして弾丸を食べてしまった可能性が脳裏によぎったそうだ。しかし、もし自分の撃った猟銃の弾丸が原因で愛犬が死んだという事実がはっきりすれば、オーナーである金森や婚約者を悲しませてしまうと考え、その考えを告げることはできなかったそうだ」
「すいません……。私がちゃんとオーナーに言うべきだったんです。でも、まさか弾丸が毒になって他の生物まで死んでいたなんて……」
悲しそうな顔でうなだれる笹野絵里子さんを、沖原沙織さんは複雑そうな表情で見つめている。沖原沙織さんがこのペンションで婚約者の金森さんとディナーを食べていた時に調理担当の笹野絵里子さんが、まかないで麺類を食べるのはおかしいと難癖つけていたが、笹野絵里子さんが鹿肉を食べなかった原因は鹿肉に弾丸の欠片が混入していたのを見てしまったことによる一種の恐怖症状態になっていたからだったんだ。
私や兄は完全に沖原沙織さんが猜疑心の目で笹野絵里子さんを見ていることで、被害妄想じみた考えに陥っているのだろうと思っていたけど、笹野絵里子さんの方は自分が口にするのをためらう鹿肉を何も知らない沖原沙織さんに出しているという後ろめたさのような気持ちもあって、挙動不審な行動もあったのかもしれない。だからこそ、沖原沙織さんは笹野絵里子さんが怪しいと睨んでしまったのではないだろうか。
笹野絵里子さんは弾丸の素材が鉛という事実までは気づいていなかったようだけど、もし気付いていたら鉛が体内に入れば猛毒と化し、中毒症状を起こすという事実にもっと強いトラウマを抱える羽目になっていただろう。
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