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そんな周囲の注目を一切気にすることなく、沖原沙織さんは身を乗り出して兄をにらみつけた。
「焦らされるのは嫌いなの! 結論から言ってちょうだい。この小さな金属片の正体って、いったい何なの!?」
「そいつは鉛だ」
「鉛?」
「正確には鉛弾だがな……。狩猟の際にエゾ鹿を鉛弾で狩っていたんだ」
兄の返答を受けて、まじまじと金属片を見ると黒灰色の金属片が歪んでいるのは恐らく、獲物の肉や骨に命中した際の衝撃で歪みが生じたのだろうと推測できた。
「これ、こんなに歪んでるけど猟銃の弾丸だったのね……」
「ああ。本来、狩猟で獲物を狩った場合、原則として死体は丸ごと持ち帰らないといけない筈なんだが、マナーの悪いハンターは重い荷物になることや、大量に出る不要な部位や骨の処分などを嫌がり、必要最低限の解体作業を現場で行うと、狩った鹿の欲しい部位だけをその場で切り取って持ち帰る」
「それって……」
確か、このペンションにやって来た初日のディナーで金森さんは私たちに言っていた。自分が狩猟で狩ったエゾ鹿を一人で持って帰ることはできないから、解体して必要な部位だけ持ち帰るのだと。あれはマナー違反だったのか。
驚きながらオーナーの顔を見れば、沖原沙織さんの横に座っている金森さんはバツが悪そうな表情で視線をそらした。どうやら狩った鹿の遺体を放置するのはいけないことだと認識した上で、金森さんは日常的にそういうマナー違反を繰り返していたようだ。私は内心、呆れてしまった。
「そしてハンターが持ち帰らなかったエゾ鹿の遺体にはすぐにカラスやオオワシ、オジロワシなど肉食の猛禽やキタキツネなど鳥獣が遺体に群がり、死肉をついばむ。丸一日もあれば綺麗に骨と化すこともある。食欲旺盛な鳥獣たちは冬場の貴重な食料として鹿の死肉を我先にと争いながらついばむ内に、死因である鉛弾も鹿肉と一緒に飲み込んでしまうんだ」
「じゃあ、オオワシやカラスがエゾ鹿の死骸の側で死んでたのって」
「ああ。鳥たちは鹿肉を食べている時、肉と一緒に鉛弾の欠片を飲み込んでしまったんだ。鉛は体内に入って胃液に浸かると毒を発生させる。鉛の毒は人間の場合、摂取量が多いと貧血症状や腹痛を起こす。そして脳や内臓、神経にダメージを与えながら急速に身体を蝕んでいく。鳥獣も鉛が体内に入れば同様に中毒症状を起こす。このレントゲン写真を見て分かる通り、エゾ鹿の近くで死んでいたカラスやオオワシは鉛弾の欠片を口から摂取して急性鉛中毒を起こして死亡したんだ。血液検査でも明らかだし切開した際、体内から鉛弾が検出された。間違いない」




