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「オオワシなどの渡り鳥は春になれば繁殖地である北の地に飛び立ち、サハリンなどで繁殖を行うが営巣する場所は資源開発で環境が悪化している」
「環境が悪化って、マズイんじゃないの?」
資源開発ということは鳥たちが営巣する為の樹々が伐採されたりして、巣を作る場所が減っているということか。それに、ああいう野生の鳥は警戒心が非常に強い。人間がむやみに立ち入る場所だと落ち着いて子育てができないから、ストレスなどで育児もままならないのではないだろうか。
「良くは無いだろうな。日本で見ることができるオオワシは五千羽ほどしか確認できない絶滅危惧種だ」
「五千羽……。そんなに少ないの?」
「オジロワシにいたっては、日本国内で九百羽以下しか確認できない」
「千羽もいないなんて……。一刻も早く何とかしないと絶滅するわ……!」
絶滅危惧種に指定されているからには数が少ないんだろうとは思っていたが、想像以上に個体数が少なくて唖然としてしまう。
「ああ。まぁ、オジロワシの場合は日本国外にも生息しているからその総数を合わせればもっと個体数は多い。しかし、移動距離が広範囲の渡り鳥は生態を把握するのが難しい。特に日本とロシアなど国をまたいで長距離を移動する鳥は保護活動も一筋縄ではいかないんだ」
「まどろっこしいわね。打てる手は全部、打てばいいのに……。絶滅してからじゃあ取り返しがつかないんだから」
「日本国内だと1905年にニホンオオカミが絶滅してから、天敵の狼がいなくなった鹿の個体数が増え続けて、森林などの食害や農業被害、交通事故なども深刻になってきている。何かの種が絶滅すれば人間にも間接的に少なからず影響は出る筈なんだがな……」
「そうならない為にも、これ以上は数が減らないように人間が配慮すれば絶滅危惧種の鳥だって生きやすくなる筈なのに」
「けっきょく人間は基本的に自分の利益になることが最優先だからな……。オオワシやオジロワシが絶滅危惧種で放置していれば個体数を減らして絶滅するのが目に見えていても企業などは、それが自分と直接関係ないなら目をそむけて無関心を装う。繁殖地の環境悪化は人間が自己の利益を追求した結果だ」
「酷いわね……。鳥たちには何の罪も無いのに」
「これが人間の身体に悪影響が出る資源開発なら、早急に対策が練られて法案などがまとめられる筈なんだが、絶滅に瀕しているのは人間とは直接は関係ない鳥だからな……。国や企業の反応が鈍く、絶滅危惧種の保護も関連各所が全力で行っているとは言えないのが現実だな。繁殖地の環境悪化の他にも、例えば日本国内では人間が作った風力発電用の風車に衝突したり、電線で感電死したり、列車や自動車と衝突事故を起こして死亡する個体が後を絶たない」
「遠い場所から、はるばる海を越えて日本へ来たのにそんな事故で命を失うなんて可哀想……」




