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「ビタミンを摂取することで免疫力がアップして、風邪にかかりにくい身体になるとか言うものね」


「そうだな。さいわい古墳時代や弥生時代にあったのに廃れたガラス製法技術と違って、茶に関しては明恵上人などが主導した栽培が上手くいった為、ガラス製法のように輸入頼りの材料が無くなるという事態にならなかったのも日本に茶が普及した要因だろう」


「私たちが今、お茶を普通に飲む習慣があるのは大陸からお茶を持ち帰ってくれた明菴栄西や、お茶の栽培に成功してお茶を飲む習慣を広めてくれた明恵上人みたいなお坊さんのおかげだったのね」


「明菴栄西が亡くなったのは1215年。74歳で死去していることから当時としては非常に長生きをしたといえる。明菴栄西は71歳になった晩年。1211年に喫茶養生記(きっさようじょうき)という茶の効能や製法を綴った書を当時、将軍だった源実朝に献上している。室町時代から茶の文化が武家に広まり、安土桃山時代に定着していたのは明菴栄西や明恵上人のように茶の文化を広めようとした僧の存在が大きいだろうな」


「74歳……。明菴栄西って当時としては、ずいぶん長生きしたのね……。お茶の効能も大きかったのかしら?」


 二十代半ばが平均寿命だった時代に74歳まで生きていたというのは、かなり珍しかったのではなかろうか。


「平安時代や鎌倉時代は人体に必要な栄養の概念なども碌に無かった頃だ。そういう時代にいち早くお茶を飲む習慣を作ってビタミンなどの栄養を摂取していたなら、当時としては異例の長寿だったことに関係がないとは言えないだろうな」


「明菴栄西は、自分の寿命でお茶の栄養や有用性を証明したともいえるわね」


 今でもお茶は健康に良い飲み物として日本人に親しまれ、最近では海外でも『グリーンティ』という名称で抹茶味のお菓子や抹茶そのものが人気だ。昔から、その効能が実証されていたというのは素晴らしいことだと思ったが、何故か兄は顔に影を落とした。


「大陸からもたらされた物には茶文化など良い点もあったが、弊害もあった……」


「弊害?」


「飛鳥時代から日本に仏教文化が伝わると同時に奈良時代などは肉食を禁止するということが、たびたびあった。その為に人間が生きていく上で必要な、動物性たんぱく質などの栄養素が不足して人々は慢性的な栄養失調になっていたようだ。当時、結核や脚気が原因で亡くなる者が多かったり、平均寿命が低かった理由の一つだろう」


「ただでさえ医療のレベルが低いのに肉食まで禁止して栄養不足な状態になってるんじゃあ、流行り病で大量に人が死んでいたのも無理ない話だったのね……」


 大陸から仏教文化が取り入れられたことで芸術や文化、学門などで大きな利点があった反面、仏教の教えを忠実に守ろうとした結果、肉食を禁止して栄養不足になっていたとは思わなかった。しかも、医療が発達していない時代にそんな無茶を国主導でやっていたというのは無謀にもほどがある。


 『無知は罪』という言葉があるが、まさに人体に必要な栄養素を知らないという無知ゆえに肉食を禁止して、人々が栄養失調や病気で死んでいたというのだから肉食禁止を指示したであろう当時の偉い人が知らなかったとはいえ、無知ゆえにどれだけの人々が衰弱したり被害を受けたのかと考えるとゾッとする話だ。


「尤も完全に肉食禁止というのは浸透しなかったようで、いつの頃からか隠語で(イノシシ)肉を牡丹(ボタン)、鹿肉を紅葉(モミジ)、馬肉を(サクラ)、鶏肉を(カシワ)と呼び、薬膳(やくぜん)として食べているということもあったようだ」


「ああ~。牡丹鍋とか紅葉鍋とかは聞いたことあるわ! てっきり肉の色が由来かと思っていたけど、肉食が禁止されていた時代の名残だったのね!」


 猪鍋や鹿鍋の際に薄切りした生肉を大皿に盛りつける際、花に見立てて美しく盛り付けていたから色や形から肉を花の名前で呼んでいたのかと思っていたけど、まさか隠語だった名残がそのまま今の時代でも定着していたとは思わなかった。


「まぁ、由来については肉の色と隠語であったこと両方かもしれないが、何せ肉食が禁止されていた時代の隠語ということで、この呼び方になったというはっきりした時期や由来については残念ながら分からない。江戸時代には完全に定着していた呼び方なのは間違いないようだが……」

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