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 現代の技術で造られた金属でも錆び付いたりするのだ。まして弥生時代や古墳時代に造られた物なら尚更だろう。


「勾玉といえば、日本神話と古事記などで伝承や名称に差異はあるが、須佐之男命(スサノオノミコト)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を倒した後、玉造の地で出雲石を原材料にして作った勾玉(まがたま)が天照大神の手に渡ったことで三種の神器の一つ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)となったと伝えられているな」


「それって神話の話よね?」


「神話として伝わっているが、実在の話も元になっていると思われる。玉造の地というのは現代の島根県松江市玉湯町玉造らしいからな」


「ああ、地名が玉造なのね……。でも地名が神話に出てくるのと同じっていうのが根拠なの?」


「島根県松江市玉湯町玉造にある玉作湯神社には櫛明玉命クシアカルタマノミコトという神が祀られている。勾玉生産が盛んだった時代、島根県の花仙山(かせんさん)で採取された輝石を材料に勾玉などを作っていた『出雲玉作氏作』という一族がいたんだが、その『出雲玉作氏作』の祖先が櫛明玉命クシアカルタマノミコトという神として玉作湯神社に祀られているんだ」


「へぇ、神様が祖先……。というか優れた人物は後に神様として祀られることもあるから当時、勾玉づくりで卓越した技術を持っていた技術者が後の世で神様として祀られたのかしら?」


 福岡県太宰府市にある太宰府天満宮に祀られている菅原道真公は学業にご利益がある神様と言われているし、徳川家康は栃木県日光市にある日光東照宮で東照大権現とうしょうだいごんげんとして祀られている。


 優れた功績を残した人物や有名な武将が神社に祀られることは結構あることなのだから櫛明玉命クシアカルタマノミコトについてもそうなのかと思って尋ねれば、兄は真面目な表情で頷いた。


櫛明玉命クシアカルタマノミコトが『出雲玉作氏』という勾玉造りの技術者集団である一族の祖先だというのなら、その可能性は高いな。この櫛明玉命クシアカルタマノミコトの手から天照大神に八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)が渡ったとも言われていることから、玉造という場所は三種の神器の一つである「八尺瓊勾玉」発祥の地とも言われていて、現在も島根県の花仙山(かせんさん)からは出雲石と呼ばれている良質な瑪瑙(メノウ)などの輝石が採れる」


「へぇ、今でも勾玉の材料になるような輝石が採れるんだ」


「ああ。日本で最も知名度のある勾玉、三種の神器の一つである八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)が出雲産の輝石であると言われていることも、勾玉は輝石から削り出されて作られるというイメージを強い物にしているのかもしれないな」


「三種の神器の一つが勾玉っていうのは有名だし、その有名な勾玉が神話の時代に輝石を削って作られたと語り継がれてるなら一般的に勾玉は輝石から作られてるっていう常識が浸透していてもおかしくはないわよね」


「実際、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)が作られたと言われてる場所に原材料となる輝石が採掘できる山があって、朝廷に勾玉を納めていたという記録も残っているからな」


 神話の時代の話だし、須佐之男命(スサノオノミコト)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治するという話はファンタジー冒険物語としか思えなかったけど、地名や関連する品などについては物的証拠とも言える輝石が採れる山もあることから実際にあった事柄がモチーフになったという説に信憑性を与えている。正直、ちょっと聞いただけではどこからファンタジー神話でどこから事実なのか、にわかには判断がつかない。


「それにしても、今でこそガラスは人工物で大量生産が出来るから、そんなに珍しい物ではないけど弥生時代ならガラスは希少品だっただろうし翡翠(ヒスイ)瑪瑙(メノウ)琥珀(コハク)、水晶みたいな輝石と価値的に大きな差はなかったのかもしれないわよね……。初見の人にはガラス勾玉は高価な宝石のように見えてたのかもしれないし……」


「そうだな。特に自然界では透明感のある青色の輝石は少ない……。しかし青色ガラスならば材料があり製作方法さえ把握していれば比較的、簡単に透明感のある青色のガラス製品を作ることができる。古墳から貴人の副葬品として青色のガラス製品が発掘されていることからも、当時のガラスは宝石のような希少品でありながら材料があり製造法が分かる人間なら量産できた為、弥生時代には日本国内でガラス製の勾玉などが生産されていたのは間違いないようだ」


「でも、なんで古墳の時代にガラスが日本で製造されてたって分かるの? 海外から輸入って形でガラス製品が入ってきた可能性もあるんじゃないの? 確か奈良の正倉院で保存されてるガラス碗とか、宝物として扱われてる位なんだから当時はすごい貴重品だったんでしょう? あれって外国からの輸入品じゃなかったっけ?」

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