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 金森さんが用意してくれたランタンと懐中電灯を受け取った私と兄は階段を上って、二階の201号室へと戻った。そして自分のスマホで気になっていた件を調べ終わった私は、真っすぐに兄を見つめる。


「飼ってた北海道犬が三匹も連続死するなんて絶対におかしいわ! それに5メートル近い大きさの鳥なんてありえない! ハンターをやってるオーナーの金森さんも見たことが無いような大きさの怪鳥っていうのは、きっと妖怪なんだわ! 夜になると怪しい声が聞こえるのも北海道犬が死んだのも全部、妖怪の仕業に違いないわ!」


「何でも妖怪の仕業だと思うな……。と言いたい所だが話を聞く限り、金森が見た怪鳥が本当に存在するなら今回ばかりは妖怪が関わっていそうだな……」


 客室の窓際に立って、夜の雪山を見据える兄の黒い瞳が鋭く細められる。私は同意を得られたのが嬉しくて大きく頷いた。


「やっぱりそうよね! それにしても、5メートルもある怪鳥なんて……。スマホで調べたけどハシビロコウですら翼を広げたときの大きさが260センチなのよ! あの大きいハシビロコウよりも、さらに倍近くあるサイズなんて信じられない! オーナーが見た鳥の妖怪って何だろう?」


「異形の鳥に関する伝説は多い……。日本のみならず海外でも多くの伝承がある」


「例えば?」


 兄は私よりも、ずっと見えない筈のモノが見えやすい体質も相まって日本の妖怪や歴史。海外の神話、伝承などに詳しい。率直に聞けば、兄は自身の両腕を組んだ。


「海外で鳥の妖怪と言える存在なら、ギリシア神話のハルピュイアだな。日本ではハーピーの呼び名の方が有名か。顔と胸までは女の身体だが下半身は鳥で鋭い爪を持つ。人間の腕があるべき部位は鳥の翼があるという女面鳥身だ。同じくギリシア神話のエキドナは上半身が人間の女で下半身は蛇、背中から鳥の翼が生えている怪物だ」


「あ、なんか聞いたことある気がするわ……」


 ゲームとかでそういうモンスター見たことある。と思ったのは口にしなかった。


「フランスあたりならコカトリスも有名だ。雌鳥の身体にドラゴンの翼と蛇の尾を持つが、最大の特徴は強力な毒の息で周囲の生物を死滅させる所だな……。他の有名どころだとインド神話のガルーダ。鷲の頭と翼を持つが身体は人間の神鳥だ。尤もこちらはヴィシュヌ神の乗り物で神格が高い。こんな雪山に現れるような存在じゃないだろう」


「コカトリスみたいな毒の息を吐く鳥が現れてたら大変ね。それにしてもインドの神鳥は、こんな雪山には現れなさそう……」


 インドの神鳥が北海道の雪山で犬を殺すというのは違和感があり過ぎる。神格が高いという神鳥がそういうことをするとは思えなかった。


「あとはインディアンの伝承にサンダーバードという神鳥もいるな……。5メートルというサイズ的にはサンダーバードが近いんだが、雷の精霊であり自由に雷を落とすというサンダーバードは目が炎のように赤いそうだ。雷の精霊を見てシルエットしか分からなかったというのは考えにくいから、これも除外すべきだろう。ほかに中国の伝承で有名なのは鳳凰や朱雀だが……」


「で、結局どの妖怪が出たと思ってるの?」


 世界の神話、伝承上の鳥について兄に聞いていたら時間がいくらあっても足りないし、切りがない。そう判断した私はストレートに答えを尋ねる。すると兄は私の顔を横目で一瞥した。


「結論から言うと、金森が見たという怪鳥は『以津真天(イツマデ)』という妖怪の可能性が高い」


「『イツマデ』……? そんな名前の妖怪がいるの?」


「ああ、漢字ではこういう風に書く」


 兄は黒い上着のポケットからスマホを取り出し、液晶画面を数回タップして『以津真天(イツマデ)』の画像と漢字の明記がされているページを見せてくれた。スマホの画面には黒い墨で描かれた『以津真天(イツマデ)』の浮世絵画が表示されている。


 妖怪『以津真天(イツマデ)』は人間の顔と鳥の翼、蛇の身体が合体したような、まさに怪鳥と呼ぶに相応しい不気味な姿で立派な屋根の上を浮遊していて、いかにも不穏な雰囲気を漂わせている。


「『以津真天(イツマデ)』という物の怪は『今昔画図続百鬼こんじゃくがずぞくひゃっき』に掲載されているんだが、元となったとされている妖怪は『太平記』に記載されている怪鳥と言われている」


「『今昔画図続百鬼こんじゃくがずぞくひゃっき』っていうのは聞いたこと無いけど『太平記』の名前は聞いたことあるわね……。詳しい内容は知らないけど……」

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