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負け犬達の英雄願望  作者: 出武(デブ)
プロローグ
3/4

剣聖と村人

 世界を救った勇者とそしてここの出身者が堂々の凱旋である。村人はおおいに沸きに沸いた。勇者もどこかの村出身であり、村人関係なく親しくしてくれるような性格だったのも大きいだろう。剣聖になり久々に帰ってきたミリアも当時と変わらないような態度で村人と接している。


 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎや勇者一行の冒険譚を聞いたり、村の出し物をしたりで夜更けまで盛り上がっていた。

 そして、村長が手はず通り切り出す。


「勇者クリス様。今日はこの程度にしておき明日儀式をしようと思います。そしてそこで略式かつ正式なものではないですがミリアとの婚姻の儀を我々村人で執り行い、祝福させてはくれませぬか」



 俺は真っ暗な闇の中、誰もいなくなった宴の後で所々まだ火が消えてない薪を一つずつ消し、飲み食いの後を片付けていた。村人達がが勇者やその他のメンツをもてなしているからその間の片づけって奴だ。

 燃え尽きた薪の灰をを箒で掃く。食べ物のくずを集める。単純作業はいい何も考えずにすむ。

 結局のところ、俺は未だにことここに至っても信じたくなかったんだろう。噂では聞いていた勇者達の恋物語。わかってるなんてただの自分を慰めるための言い訳だったんだ。

 何年もあってなかったがわかる。今日の態度や勇者との距離。婚姻の儀式の時のあの顔。

 ミリアの中にはもう俺はいなかった。

 ミリアが剣聖として旅立ってからの俺の全ては何だったんだろう。剣の修行も勉強も、全ての努力や彼女を思った時間は何だったんだろう。

 結局彼女を常に支え、守り、一緒に戦ってきたのは勇者で、俺は守られていただけで、わかってはいるんだ。

 わからない、お腹の底にぐつぐつとしたなにかがあって暴れだしそうなそれでいて心の中は冷え切っているようなこの感覚。


 俺はは何のために生まれたのだろうか。


 そうやって自問自答するナギの後ろから声がかけられる。


「ナギ……久しぶり」


 振り返るとそこには、剣聖ミリアが立っていた。

 近くでみるとやっぱり綺麗だ。昔から思っていたが、いろんな経験をして垢ぬけたのだろう。そしてそれでも、やっぱりミリアだなと思える人懐っこさみたいなのがある。

 そんなミリアは、目を合わせず少し離れた位置に立っていた。


「お久しぶりです剣聖様」


 俺はなんとか絞り出す。緊張でのどが乾ききっている気がする。でも、なんとか続ける。


「御用ですか? それとも村長宅の場所を忘れましたか? 今村のものを呼んできましょう」


 少し言葉に棘が混じった。そんなことは言いたくなかった。やめてくれ。俺を一人にしてくれ。なんでわざわざ俺に話しかけた。


「ち、ちがうよ! ナギと話がしたくて抜けてきたの! それに、私は剣聖になっても私だよ……。 その……そんな敬語……やめてほしいな……」


 依然目を合わせない。ならなぜ、こっちを見ないんだ。もう俺とお前は違うと言いたいのか。そもそも何を話したいんだ。何を話せると言うんだ。お前は何が望みでこんな罰みたいなことを俺にする。

 さっきのぐつぐつとしたものが言葉になって吹き出しそうになる。そんな俺に気づいてないのかミリアは続ける。


「ナギはずっと約束守ってくれたんだね。この村を守ってくれた。帰ってきた時みんな笑顔でみんな楽しんでてようやく私世界を救ったんだー邪神を倒したんだって実感できたよ」


 まくしたてるようにミリアは言う。何かをごまかす様に言う。そして目から思いを悟られないように逸らす。


「よかった。私、寂しくて本当につらかったんだけどナギのおかげで報われたというか……本当にありがとう」


 そういってミリアは顔を上げた。こっちを見た顔は何とも言えない歯切れの悪い、気遣うような複雑な顔。それでいてそこには明確な媚びがあった。


 やめてくれ。せめてお前はお前でいてくれ。そんなおべっかみたいな事でごまかさないでくれミリア。お前はそんな風なことをするような奴じゃないだろ。せめて剣聖らしく真正面から斬ってくれ。


 昼よりずっと強い吐き気が俺を襲う。

 こんなミリアを見たくはなかった。こんなミリアは見たことがなかった。俺の知っているミリアはこんな顔をしなかった。


「だから、その……私……えっと……」


 俺がずっと黙っているから気まずかったのだろう。何か喋らないといけないけど何も言葉が出ず、口を開けたり閉じたり繰り返す。

 昔は言いずらいこともなかった。昔なら喧嘩してもすぐ仲直りした。言えないことなんてなかった。そう、昔なら……。


 そこで、気づく。


 そうだ、昔だ。昔なんだ。

 俺はわかっていた気がしてただけで、ずっと同じ事を繰り返してた間にミリアは前に進んでいたんだ。これは邪神の討伐だけじゃない。人は前に進み続ける。良くも悪くも誰も待ってくれたりはしなくて、俺はただミリアの言葉にしがみ付いて立ち止まっていた。


 それにも気づいてた。でも、認めるのが怖くて見ないふりしてたんだ。もう、17にもなって俺は弱くて子供のままうずくまっていたんだ。

 ならここで俺が終わらせないと先に進めない。俺もミリアも。


「剣聖様。ありがたいお言葉です。しかし自分は村人。馴れ馴れしくなどとてもできません。自分や全ての世界をましてやこの村が平穏無事なのは勇者様方のご活躍です。自分はなにもしていません。」


 ミリアの顔が不自然な笑顔のまま固まる。それでも俺は続ける。


「なので……自分もあなた様方の平穏とこれからの幸せを神に願っております」


 言えた。思ったよりも声が震えなかった。今でも未練なんて死ぬほどある。綺麗でかっこよくて強くて優しい俺の自慢の幼馴染で、そして俺の初恋の人。

 でも、それも今日までだ。落ち着くまではまだかかるだろうけど、俺は俺の道を行く。


 今日初めて真正面から見えたミリアはやっぱり可愛くてそして、眉を寄せ何か言いたげでそれでも何も言えなくてぽつりと呟いた。


「そっか……ありがとう……。 じゃあ、私戻るね……」


 そう言って、ミリアはこっちに背をむけた。村長の家に戻る彼女は一回も振り返らなかった。


 一人になった俺は空を見上げた。こんなにも星が出ていたんだと今更気づく。

 いつ以来だろう星をこんな風に見たのは。ずっと下を見つめていたんだろう。世界はこんなにも広い。俺が何者かになれるかはここから始まる。

 そうだ、まずは知ることから始めよう。何になりたいかを見極めよう。

 もう止まらない事を今日に誓って俺は歩き始めたんだ。

筆が乗ると無駄に長く書いてしまう病です。

そして鬼の3話更新分けるべきですね。私は稀代のアホです

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