英雄譚と村人
それは前触れもなく現れた。
この世果てで生み出され、全てを闇で飲み込んだ。
それは眷属の悪魔を率いて浸食し凌辱し屈辱で絶望と混沌をもたらす。
名の売れた冒険者も、高名な聖者も、賢き魔術師も何もかもが歯が立たない。
光を蝕み、闇を吐き出す。
世界の終り、漆黒の闇、絶望の名。
邪神ヴラヌクラウス。
この世の全ての邪悪の名である。
吟遊詩人は歌う。
しかし、我々の神は見捨てなかった。
神はこの世に遣わした。
世界を救いしもの達を。
聖女の光は闇を晴らし、賢者は叡智で解き明かし、剣聖は魔を引き裂く。
そして勇者遂に邪神を打倒する。
世界は救われ光が戻る。
弦を弾き、抑揚をつけ情緒豊かに歌う。
そして、平和な世界で神の遣いは結ばれる。
平和と神の象徴として仲睦まじく、全てに祝福されて永遠を誓う。
演奏を終えた彼は、緑の帽子を胸に抱いて仰々しく頭を下げた。
それを合図に周りで聞いていた人だかりがも動き出した。あるものは拍手をし、あるものは口笛を吹き、あるものは硬貨を投げる。
世界を救った勇者一行の英雄譚は今や歌に限らず、本や劇で貴族や平民関係なくそこかしらで楽しまれている。
少し前までかの邪神により世界がもうじき終わるかもしれないという終末的なところから一転、平和な世になったのだ。
しかも、その偉業を達成した勇者一行がそれぞれ見目麗しいと来たものだからもはやおとぎ話の具現化のような物でみんなの熱狂ぶりに拍車をかけた。
そんな、盛り上がる一団の輪から少し離れたところに立っている青年がいた。
年は17、赤茶けた髪に強気な吊り目。継ぎ目のほつれた革の鎧を身にまとい腰に細身の剣をつりさげている。
名前をナギと言うその青年は、歌を聞いて思い出す。
英雄譚にも歌にも語れない零れ落ちた自分の話と、あの日の踏み出した一歩を。
なんか仕事のストレスの発散のためにワイも追放もの書いたろ!!とか思ったら全然違うものができちゃいました。